熊野筆とは、「筆の都」と呼ばれる広島県安芸郡熊野町で、生産される化粧筆のことです。 2017年には、安倍総理がトランプ大統領の娘・イバンカに贈った、熊野筆の化粧筆セットが話題を呼びました。
熊野町は、愛知県豊橋市・奈良県奈良市・広島県呉市川尻町と並ぶ、日本を代表する筆産地のひとつです。 かつての熊野は農業地域でしたが、江戸時代の末期から、農閑期に奈良から仕入れた筆や墨を売る人が現れました。
広島藩も筆や墨の販売を奨励し、販売先を日本全国に拡大すると同時に、筆づくりの技術習得が進みました。
第二次世界大戦後、一時的に毛筆の需要が減ってしまいますが、昭和30年代に入ると化粧筆や画筆の製造が始まります。 平成の現在、熊野筆は毛筆・画筆・化粧筆とも、日本一の生産量となっています。
約180年前に始まった熊野筆の歴史が、世界中のメイクアップアーティストや、ハリウッド女優たちが認める世界品質の筆を達成しています。
動物の毛先をそのまま!熊野筆の特徴
photo by Nobuyuki Kondo
熊野筆の特徴は、動物毛の毛先をそのまま活かしていることです。 市販の筆やメイクブラシの多くは、原料の毛を根元でまとめて、毛先をカットしています。 熊野筆は「コマ」という木型を使用し、原料の毛を毛先でまとめてから、長さを揃えます。
動物毛のもともとの先端をカットすることはなく、根元で必要な長さに切り揃える方式です。
熊野筆の毛先で肌をなでると、なめらかで心地よく、何度でも触れてみたくなるのは、動物毛の毛先がそのまま肌に触れるからです。 毛先の弾力やコシも適切で、メイクの細部まできれいに仕上げることができます。
熊野筆に使われている毛は主に、衣類に使われる羊毛とは違った中国の山羊の毛、馬毛、狸毛、鹿毛、鼬毛(いたちもう)、ジャコウネコ毛、兎毛、猫毛、灰リスの毛が使われています。
それぞれの毛質にあった筆が作られ、化粧筆などには灰リスの毛が使われ高級毛として親しまれています。
どこの部分の毛を使っているの?熊野筆の原料を紹介
熊野筆は、大きく分けると穂首(毛の部分)と軸の2つの部分でできています。 軸の原料は、国内産・海外産の竹や木です。
上記にも示したように、熊野町の筆づくりの技術は、奈良や兵庫から導入されたもので、町内で筆の原料を手に入れることができません。
国内はもとより、海外にも目を向けて、優れた原料を調達しています。 穂首の原料は、山羊や馬、イタチ、猫などの動物の毛です。 化粧ブラシの原料は、灰リスや松リスが代表的です。
ポニーやコリンスキーなど他の動物の毛も配合して、最高の使い心地を追及しています。 一本の熊野筆に対して、種類や長さの違う複数の動物の毛が配合されます。
毛の配合は、それぞれのメーカーの企業秘密です。 配合された動物の毛を均等に混ぜ合わせるために、「練り混ぜ」という工程が行われます。