恋すてふ 我が名はまだき 立ちにけり 人しれずこそ 思ひそめしか
出典:ぱくたそ
恋すてふ 我が名はまだき 立ちにけり 人しれずこそ 思ひそめしか
「世間の人たちの間に、わたしが恋をしているという噂がもう広まってしまったようだ。人には知られないよう、密かに思いはじめたばかりなのに」
壬生忠見が詠んだ恋の歌です。
誰でも、恋する気持ちは人に知られるのが気恥ずかしいものですよね。その気持ちが真剣であれば真剣であるほど、恥ずかしいと感じるでしょう。それでもやはり、視線や態度から気持ちが漏れ出て、周囲にバレてしまうもの。そんな恋する人のかわいらしさを詠んだ歌ですね。
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほうらめしき 朝ぼらけかな
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほうらめしき 朝ぼらけかな
「貴女と一晩中過ごした夜が明けていく。夜はまたすぐに来るということはわかっているが、それでもこの夜明け前の時間が恨めしい」
平安時代中期の公家で歌人でもある藤原道信が詠んだ歌です。
藤原道信が恋した婉子女王(為平親王の娘)は、藤原実資に嫁いでしまい、彼自身にも奥さんがいました。そのため、この歌が婉子女王に送られたものなのか、奥さん宛に読まれたものなのかはわかりません。「愛する人に会える時間が早くきてほしい」という熱量がこもった歌です。
女性なら「一度はこんなことを言われてみたい!」と思うかもしれませんね。
忘れじの 行く末までは 難ければ 今日を限りの 命ともがな
忘れじの 行く末までは 難ければ 今日を限りの 命ともがな
「『いつまでも忘れない』という貴方の言葉はとてもうれしいですが、いつまでも変わらないというのは難しいでしょう。だから、その言葉を聞いたこの幸せな気持ちのまま命が尽きてしまえばいいのに、と思うのです」
新古今集に掲載された歌で、儀同三司母が詠んだものです。
儀同三司母の夫である関白・藤原道隆が、儀同三司母に通い始めた頃に詠まれたもの。つまり、新婚の頃の歌です。
しかし、当時は一夫多妻制の通い婚でした。夫が心変わりして儀同三司母の元に通わなくなれば、離縁もありえる時代。「愛されている幸福の中にでも不安を感じずにはいられない」。そんな女性のかわいらしい気持ちが素直に詠まれています。