【日本三大七味とは?】食卓の名脇役「七味」の歴史や、材料によって代わるその魅力

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七味は、常備薬のようにどこの家庭の台所にも置かれています。 主役をはることはないけれど、 いつも出番を待ってじっとスタンバイしています。 うどんやソバ、牛丼、焼き飯、けんちん汁などを食べるときに、 七味のことを思い出し、パッパッパと振りかけると七味の出番はそれで終わりです。

しかし、七味が入ることで、 料理の味はしまり、パンチが効いたものになります。 そんな名脇役の七味は、 日本の食文化が生んだ世界に誇るオリジナルブレンドのスパイスです。 今回は、七味の魅力や歴史について紹介します。

七味とは

七味とは「七味唐辛子」の略で、 七味と書いて「しちみ」や「ななみ」と呼ばれます。

「七味唐辛子」あるいは「七味(しちみ)」という言い方は、もともと関西地方における呼称で、 関東では「七色唐辛子(なないろとうがらし)」あるいは「七色(なないろ)」とよばれていましたが、 現在では「七味唐辛子」と呼ばれることが一般的となりました。 文字通り七種類の香辛料や薬味をブレンドした調味料の一種です。

七味の歴史を語る前に、 まずは七味の主成分となっている唐辛子が 日本にやってきた物語を紹介したいと思います。 唐辛子と聞くと赤いものを思い浮かべる人もいるかと思いますが、 緑色をした青唐辛子とよばれるものもあります。 どちらも同じ唐辛子ですが、 熟する前のものが青唐辛子で、 熟したものが赤唐辛子と分けて扱われます。

また、唐辛子には和名で「トウガラシ(学名:Capsicum annuum)」と呼ばれるものだけでなく、 ピーマンやパプリカ、シシトウ、ハバネロといったトウガラシ属に含まれるものも、 唐辛子の一種として扱われる場合があります。 なお、鷹の爪は、唐辛子の品種です。


出典:写真AC

属名である「Capsicum」は、ラテン語の「capsa」(袋)からきており、 トウガラシやピーマンなど、トウガラシ属の果実の形状がその由来です。 同系語に、英語の「カプセル(capsule)」があります。 唐辛子は、中南米が原産で、日本では縄文時代にあたる約一万年前には栽培されていたといわれています。

現地の人たちが薬用として用いていた唐辛子を世界に広めるきっかけをつくったのはコロンブスで、 彼がそれをスペインに持ち帰ったのが1493年、それから約50年後の1542年には日本にも唐辛子がやってきます。

唐から伝わった辛子という意味で「唐辛子」と呼ばれていますが、 この場合の「唐」の字は中国を意味しているのではなく、外国を意味しています。 飛行機やエンジンを動力とした船のなかった時代にもかかわらず、 唐辛子が海を越えて極東の日本にまで伝わった、その伝わり方の速さには驚かされます。

日本に伝わった唐辛子が七味に使われるようになったのは江戸時代初期からです。 七味を最初に売り出したのは、薬種商の中島徳右衛門で、 現在、「やげん堀 七味唐辛子本舗」として店舗を構える店の元祖になります。 この「やげん堀 七味唐辛子本舗」と、 長野の「八幡屋礒五郎」、 京都の「七味家」の七味が、 日本における三大七味唐辛子に数えられ、 創業以来、現在も七味唐辛子を製造販売しています。

七味の原料


出典:写真AC

七味は七つの原料をつかって作られますが、 七種類の成分に決まりはなく、 生産者によって違いがあります。 日本では江戸時代から続く老舗である、 東京の「薬研(やげん)堀」、長野の「八幡屋礒五郎」、京都の「七味家」の七味が三大七味と呼ばれています。

赤唐辛子を主成分として、サンショウ(山椒)、麻の実(あさのみ、おのみ)、黒ゴマまでが同じで、 残る三つに違いがあります。 薬研堀では「焼唐辛子、陳皮、ケシの実」、 八幡屋礒五郎では「生姜、紫蘇、陳皮」や、 七味家では「青じそ、白ゴマ、青ノリ」となっています。

それぞれの素材に微妙な違いがあるのは、 七味が生まれた歴史的背景や、 関東と関西における食文化の違いにもよります。 それでは、日本の七味を代表する三つの店と、 それぞれのおすすめの七味について、 もう少しくわしく話してみたいと思います。

おすすめの七味①

八幡屋礒五郎

「八幡屋礒五郎(やわたやいそごろう)」は、 長野県の善光寺の門前に店を置く、1736年創業の老舗です。 初代室賀勘右衛門が善光寺の堂庭(境内)で、 体の不調を治したいとお寺にお参りする人たちに、 健康に効くものを買ってもらおうという願いから、 七味唐辛子を売り出したのが始まりといわれています。

「生姜」が入っているのが八幡屋の七味唐辛子の特徴で、 生姜は体をあたためる効能があります。 大火によって消失した善光寺再建のときには、 作業に従事した大工たちの体をあたためるために、 七味唐辛子入りの汁がふるまわれたといいます。

初代の名前は室賀勘右エ門といいますが、 室賀氏の起りは清和源氏であったため、 源氏の長である源頼朝があがめた八幡宮から、 屋号の「八幡」は戴いているといわれています。 また勘右エ門は、商いでは「礒五郎」を名乗っていたため、 それが「八幡屋礒五郎」の屋号にもなったようです。

八幡屋礒五郎では、近年、主成分である唐辛子を長野県産とするために委託生産に着手し、 他の原材料も長野県産をより多く使うことで、 「信州の七味唐からし」としての独自性を高めていこうとしています。 そんな八幡屋礒五郎でのおすすめの七味に、 七味唐辛子に柚子の入った「ゆず七味」があります。

うどんやけんちん汁、鍋物、丼もの等、 いろんなものに振りかけて食べられます。 柚子の風味が口のなかに広がり、料理の味を引き立てます。 ピリピリした辛さがたまらない「山椒七味」もおすすめです。 辛さのなかに爽やかさのある不思議な七味です。

唐揚げやてんぷらなど油っぽいものにかけると、味がひきしまり、さっぱりした感じになります。 そして、やはり古くから八幡屋磯五郎独自の調合(黄金比率)で作った「七味唐からし」を忘れるわけにはいきません。 七つの個々の素材が絶妙なバランスで風味を豊かにし、香りの高さは食欲を増進します。

辛味にはコクがあり、味も香りも、スーパーなどに売っている他の七味と比べると、全然違います。 「たかが七味、されど七味」、これぞ、伝統の成せる技を感じさせてくれる七味です。

【一味と七味の違い】辛さを楽しむか、風味を楽しむか

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