川越といえば特産品のさつまいも「川越いも」が有名ですが、実はここに伝統的な醤油づくりをしている松本醤油商店があるのです。その歴史ある醤油の製法と代表的な商品「はつかり醤油」をご紹介します。
松本醤油商店の歴史
松本醤油商店の前身である横田家は、もともとは米相場を動かすほどの豪商だったのですが醤油製造業として明和元年(1764年)に創業。ここで作られた醤油は、川越城に献上され、また江戸にも伝わったのではないかと推測されています。
やがて寛政3年(1791年)に川越藩御用達となり、江戸時代の天保元年(1830年)に蔵を建造、醤油蔵と杉の木桶を拡張します。やがて明治22年(1889年)には松本家初代新次郎が横田家より醤油の製法と蔵を引き継ぎ、現在の松本醤油商店になったのです。
醤油蔵の建造以来250年もの間、杉桶40本を使って醤油を作り続けてきた歴史と伝統。その歴史の中で育まれた麹や酵母はいまも蔵の中で生きていて、そのため香り高く芳醇な風味の醤油ができるのです。
麹作りから発酵・熟成まで
松本醤油商店では埼玉県産の小麦と川越産の大豆を使用し、約3日間発酵させて麹を作ります。いまでは温度や湿度管理に機械を利用していますが、ただ、麹は生き物なので夜中でも人が麹室に入って状態を確認しているそうです。まるで子供の様子を見守る親のようですね。
こうして麹ができたらいよいよ発酵・熟成という工程に移ります。麹を杉桶に入れ、濃口醤油を作る場合は食塩水を足します。再仕込み醤油を作る場合は生醤油を足して「もろみ」を作るのです。「もろみ」は蔵の中に住んでいる麹菌や酵母菌、乳酸菌によって発酵が進み、約1年以上熟成します。
この間、職人が「櫂入れ」といってもろみを櫂で撹拌する作業をします。もろみを上から下に混ぜるのですが、麹菌の力で発酵・熟成が進む過程なので、うっかりするともろみが桶から溢れ出してしまうそうです。ですから、そこでも職人の長年の経験がものをいいます。
搾り、そして火入れ
杉桶に入ってから1年が経ち、もるみの発酵・熟成が終わったら「搾り」という工程に入ります。もろみを少しずつ布の上に広げ、それを幾重にも重ね、重みで醤油を搾り出すのです。搾りにかける時間は3日間。じっくり搾り出された生醤油が出来上がります。
しかし、この段階ではまだ酵母が生きていて、澱といわれる不純物が混じり、香りも弱いそうです。そのため「火入れ」という工程を踏んで香り高い醤油に仕上げます。この時に醤油を加熱するので殺菌も同時にできます。また、火入れの温度設定や加熱時間で醤油の風味が変わります。
約1年間醸造するといっても、醤油は生き物。気温や湿度によって熟成期間が1年ではなく400日かかることもあります。いつも通り櫂入れや火入れをしても出来上がりが違ってくるのです。そのため、ひとつひとつの工程で醤油の熟成度合いを見極めるのも職人の技。
発酵の状態を味や香りでチェックします。職人の感や経験に頼る部分なので、本当に同じ品質の醤油ができるのかどうか心配になりますが、そこは大丈夫。社長の松本公夫さんは科学的分析を試みました。つまり、科学的に一番醤油がおいしい状態と職人の感でおいしいと感じた醤油を比べたのですが、なんとその結果が一致したのです。
職人は科学的な手法で醤油の分析をするわけではありませんが、一番いい熟成の状態を経験上知っているのです。
松本醤油商店「はつかり醤油」
松本醤油商店を代表する商品「はつかり醤油」は、再仕込み醤油です。再仕込み醤油は「さしみ醤油」や「甘露醤油」とも言われ、山口県柳井市が発祥です。再仕込み醤油は一度作った生醤油にふたたび麹を入れて再発酵させる醤油です。つまり木桶にもろみと生醤油を入れ、2年以上の月日をかけて作られる醤油で、濃口醤油に比べ倍以上の材料と手間がかかります。旨み成分と残留糖類が多いため、味わい、香り、色、すべてにおいて濃厚な逸品です。
刺し身につけたり、冷奴にかけたりするほか、焼肉やステーキ、チャーハンの仕上げにじゅっとかけるのもおすすめ。1.8リットルの瓶入りの商品や卓上用の商品などサイズ違いの製品が豊富に揃っています。
はつかり醤油だけじゃない
松本醤油商店には、はつかり醤油以外にも木桶の中で1年熟成した「天保蔵醤油」や丹波産の山椒や三宅島産唐辛子などを漬け込んだ「かわりだね醤油」も販売しています。その他、はつかり醤油で国産野菜を漬け込んだ「はつかり醤油漬け」やたまり醤油で漬けたらっきょうやにんにくなどの漬物も用意されています。
蔵が都市景観重要建築物
醤油の醸造をしている蔵は木造の重厚な建物。川越市の都市景観重要建築物に指定されています。醤油が発酵する芳香に包まれ、歴史を肌で感じながら醤油蔵を見学することもできます。敷地内の直売所「鴫蔵(しぎくら)」でのショッピングも兼ねて足を運んでみてはいかがでしょうか。