学校の授業で「短歌」について触れたことがある人は多いでしょう。しかし、授業以外の場面で短歌について掘り下げてみたことがある人は、少ないのではないでしょうか?
しかし、それではもったいありません。短歌には、短い言葉のなかに、日本語の美しさや表現力の素晴らしさが詰まっているのです。
今回は、そんな短歌のなかでも、有名な和歌を四季やテーマに分けてご紹介しましょう。
短歌とは
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短歌とは、五・七・五・七・七からなる五句体で読まれる、和歌の形式のひとつ。「万葉集」や「古今和歌集」など、古来より人々に詠まれてきた和歌には、短歌のほかにも「旋頭歌」や「長歌」などがあります。平安時代に入ると旋頭歌や長歌は詠まれなくなり、次第に衰退していきました。
しかし、短歌は何十世紀にも渡って詠み続けられてきました。それだけ何十世紀も人々を惹きつけてやまない魅力が、この31音の中に込められているのです。歌人は、この短い言葉のなかで、さまざまな感情や情景を詠んでいます。
短歌で有名な人といえば?
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まずは、短歌で有名な作者を3名ご紹介します。
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1人目は、正岡子規。明治時代を代表する文学者で、短歌のみならず俳句や随筆、評論など幅広い分野で活躍していました。俳句でも「写生」という手法を提唱していて、目の前にあるものをありのままに詠む、淡々としたなかに味わいのある作風が人気です。
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2人目は、与謝野晶子。生涯で5万首もの短歌を詠んだといわれていて、作品は情熱的なものが多く残っています。処女歌集「みだれ髪」は、女性の恋愛感情を素直に詠んだ斬新な作風で、出版当時は賛否両論だったようです。
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3人目は、若山牧水。生涯で9千首の短歌を詠んだといわれ、旅と自然を愛していたことから、日本各地に歌碑が数多く残されています。代表作である歌集「別離」には、恋人との別れの時期に詠んだ歌が収録されており、彼の名を広める作品となりました。
【春】有名な短歌3選
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1.「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」
作者:小野小町
収録歌集:古今和歌集
非常に有名な短歌で、色あせた桜に老いてきた自分の姿を重ね合わせて詠んだ歌。「無常観」が歌のなかに現れていて、日本らしい美学が感じられる歌です。
2.「ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ」
作者:紀貫之
収録歌集:古今集
やわらかな日差しのなかに桜の花びらが散っていく、どうして花はこんなにも慌ただしく散ってしまうのか、静める心はないのかという気持ちを表現した歌。日本らしい情景が浮かんでくる歌でありながらも、散りゆくことへの哀愁が感じられます。
3.「わが園に 梅の花散る ひさかたの 天より雪の 流れ来るかも」
作者:大伴家持
収録歌集:万葉集
梅の花が散っている情景を、まるで天から雪が流れてきているかのようだと詠んだ作品。空から流れ落ちてくるイメージを加えることで、より美しさを際立たせて表現しています。
【夏】有名な短歌3選
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1.「春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山」
作者:持統天皇
収録歌集:新古今集
山の緑と布の白さとで夏の訪れが感じられることを詠んだ、とても爽やかな印象を与える歌です。
2.「夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ」
作者:清原深養父
収録歌集:古今集
「たった今、夜になったかと思ったらもう明けてしまった。なんて夏の夜は短いのだろう」という内容を、「月が雲にお宿をとった」と擬人法を使って表現している歌です。
3.「とをちには 夕立すらし ひさかたの 天の香具山 雲隠れゆく」
作者:源俊頼
収録歌集:新古今和歌集
「十市」に「遠い地」をかけ、遠くの場所を意味しています。遠くの地のほうをみると、夕立によって天の香具山に雨雲が覆いかぶさり、隠れて見えなくなってきたことを詠んだ歌です。
【秋】有名な短歌3選
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1.「千早ぶる 神代もきかず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは」
作者:在原業平朝臣
収録歌集:古今集
この歌は、屏風に描かれた絵に合わせて詠まれたもの。龍田川の一面に紅葉が浮いて真っ赤な紅色になっている様を「水をしぼり染めにしている」と見立てて表現しています。
2.「秋の夜も 名のみなりけり 逢ふといへば 事ぞともなく 明けぬるものを」
作者:小野小町
収録歌集:古今和歌集
秋の夜は長いのが通説ですが、実際はそんなことはなく、好きなあの人と逢っているときにはすぐに秋の夜が明けてしまう気持ちを詠んだ歌。
3.「君待つと、我が恋ひをれば 我が宿の 簾動かし 秋の風吹く」
作者:額田王
収録歌集:万葉集
額田王が、近江天皇を思って詠んだ恋の歌です。いつ来るかと心待ちにしていると秋風が簾をそっと揺らし、自身の心も揺らぐ様を表現しています。
【冬】有名な短歌3選
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1.「田子の浦に うちいでてみれば 白妙の富士の高嶺に 雪は降りつつ」
作者:山部赤人
収録歌集:新古今集
寒い冬の日、海の青と、「白富士」と呼ばれる冬の富士山にしんしんと雪が降っている幻想的な情景を詠んだ歌です。
2.「かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける」
作者:大伴家持
収録歌集:新古今集
冬の冴えわたる夜空の星を、白い霜に見立て「冬の夜空を見上げると、天の川に輝く星が美しい。冬の夜がふけていくなあ」と感じ入っている様子を詠んだ歌。
3.「朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪」
作者:坂上是則
収録歌集:古今集
坂上是則は、三十六歌仙の一人に選ばれています。月の白い光を、雪や霜に見立てて詠んだ歌です。