尾瀬、南会津の山里「檜枝岐村」で出会った山人料理(やもうどりょうり)郷土料理の数々

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奥会津・檜枝岐村とは

平成19年(2007年)に国立公園に指定された尾瀬の福島県側の入り口にたたずむ南会津の山里です。檜枝岐の料理は、近頃忘れかけていたような類いの、なにか癒される、懐かしい、しかし、とても新鮮な「食」との出会いを感じるものでした。

それはまさに山の滋味が山盛りになって展開される、山人料理と呼ばれる、すべて山から授かった料理です。野ウサギ、野鴨、熊、鹿、イワナ、マス、サンショウウオ、またアカダケ、ワケイダケなどのきのこ、ミョウガ、ユキザサ、フキ、ノビル、イラクサなどの山菜、とちの実、のびるの実、グミなどの木の実の類い、山から受ける滋味の豊富さに圧倒されます。

山人料理「アカダケの刺身」

例えばアカダケの刺身。マンゴーのような色で、ふちは朱色に近い。大きなキノコの姿作りです。茹でたものを山葵醤油でいただく。白身魚のお造りのような上品な旨味と食感。焼酎、地酒と合います。

あるいはミョウガ。これも素材そのものを味わう。鉛筆状の細い茎の端を持って白い部分に味噌をつけてかじると爽やかな風味が鼻腔を抜け、これは、東京の料理屋で出て来たらさぞかし受けるに違いないとつぶやいたら、

同席されていた村長さんに「いやいや、これはここに来て味わっていただきたいのです」と仰る。確かにその土地の空気を吸って、その地の食を味わうことが一番かもしれません。

檜枝岐村の民宿「ひのきや」

夕餉の大きな食卓に、山の珍味が何種類もところ狭しと並べられました。なかでもメインというべきか、マスを使った「いずし」はとても手をかけて作られる伝統料理です。そして各家でそれぞれ自慢の味を伝えているそうです。

豪快なる山椒の葉(普段よく見かける木の芽が二十倍ぐらいに成長している!)、先ほどのアカダケ、ノビルの実などが麹をまぶしたマスと混ぜ合わされ、ほどよい塩気と発酵した旨味の贅沢な味わいで、どこか癒されるような深い味を醸しています。 

また、「ふきもみ」はフキとイワナとどぶろくを混ぜたもの。これは肴としてもお酒飲みにはこたえられないものと思われます。

醤油いらずの野菜「ユキサザ」

見た目にも清々しいのは、ユキザサを色よくさっとゆがいたもの。癖のないすっきりとした甘みがほのかにあり、醤油をたらさなくても美味しく、ほうれん草や小松菜のように必須ビタミンの豊富な山から直接もたらされる緑黄色野菜と言えそうです。爽やかな味わいです。

このユキザサは沼山峠から尾瀬に入る木道脇にたくさん見かけますが、尾瀬にそびえる燧岳の頂上にも群生しているそうです。もちろん、国立公園内の植物はいくら美味しそうでも採取禁止です。

檜枝岐の蕎麦を中心にした郷土料理のあれこれ


出典:尾瀬檜枝岐温泉観光協会

山深い里では稲作は困難で、やはり蕎麦の栽培が主になり、必然的に山の幸と蕎麦の組合わさった様々な伝統料理が生まれることになりました。

「おっきり」というのは、蕎麦をこねて3ミリぐらいに薄くのばし、ワンタンの皮より少し大きめに四角く切ったものを茹でたものです。ひのきやさんではそれに熊の脂をまぶしたものが登場しました。

シンプルに塩味でいただくのです。イタリアにもパスタをニンニクと唐辛子の香をつけたオリーブオイルでまぶしただけのペペロンチーノがありますが、檜枝岐ではそばのパスタに熊の脂というところが何やら迫力が違います。

熊の脂は冷凍庫に入れても固まらないほど、寒いときでも他の獣脂のように固まらず、保存もよくまったく臭みがありません。 不飽和脂肪酸の割合が多く、血液サラサラを目指せます。

人間の皮脂の成分と大変近いので、化粧用としてもよいらしく、ひのきやのおばあちゃんは若々しく、肌もつやつやでした。カリカリの熊の肉の部分が香ばしく、のして茹でた素朴な蕎麦の風味とよく合っていました。

グミの実、焼きもち


出典:尾瀬檜枝岐温泉観光協会

蕎麦を使ったオヤキのようなものは、中身に驚きました。グミの実だったのです。もちっとした皮を突き抜けてほんのり甘く、やさしい酸味が口の中に広がります。グミは秋に採れる木の実なので水煮にして保存しておくそうです。

蕎麦からできる「はっとう」

また、薄くのした蕎麦を菱形に切って茹で、エゴマのほの甘い味噌をまぶした「はっとう」は上品な味わい。名前の由来は「御法度」から来たそうで、あまりに美味しかったため役人に禁止されたのだとか。エゴマはゴマとまた違った風味で香ばしく、温かくてモチモチの蕎麦と絡んで大変美味しいです。


出典:南会津町役場本庁舎

伝統工芸品で食べる郷土料理「つめっこ」

そば粉を練って、一口大ぐらいに指先でつまんで入れたすいとんとゴボウや芋、山菜、茸などが入った「つめっこ」は檜枝岐村の伝統工芸品である曲げ物の蓋付きの器に盛った蕎麦のすいとん汁です。旅館丸屋さんには先代からの詰めっこ用の器があって、小振りの楕円形の御弁当箱といった風。

出典:TOBU

いや、もともとは御弁当箱だったのでしょうが、それには漆が塗ってあるので汁が漏れません。イワナを使った出汁に野菜やキノコの旨味が加わって、温まる一品です。

檜枝岐のジビエ

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