沈香とは
沈香は、じんこうと読みますが、果たして何のことだか想像がつきますでしょうか? これは、香木の一種です。香木と言われてもピンと来ないかもしれませんが、香りのする木材です。白檀(びゃくだん)という言葉なら聞いたことがあるのではないでしょうか。
沈香と白檀は、香木の二大巨頭とでもいうべきものなのです。沈香は、貴重な存在なので白檀よりもずっと価値が高いものです。その強い香りから、線香やお香に使われています。
沈丁花という花の名も、「沈」に関しては沈香から来ています。沈香よりも、伽羅(きゃら)がその名を知られているかもしれませんが、伽羅は沈香の中で質の良いものを指します。
沈香の特徴
photo by Agarwood For Life™
沈香は、水に沈むことにその名前の由来があります。水に沈む木というのは紫檀・黒檀など非常に少ないですが、沈香の場合は原木が重いわけでなく、樹脂の多さで比重が高くなっているのです。沈香の樹脂は、樹液がバクテリアの働きにより、長い時間を掛けて固まったもの。
樹液は常に出るものではなく、原木である沈香木などジンチョウゲ科の木が、病気や害虫、風雨などから身を守るために、損傷を負った部分の防御のため分泌するものです。すべての沈香木が香りを発するわけではなく、また人工的に作り出すのは困難です。
さらに時間も要し、高品質の沈香が生まれるまでには100年以上かかるとされています。だからこそ価値が高く、伽羅に関しては、金よりずっと高い値で取引されています。沈香の産地は、インドから東南アジアに掛けての地域です。
沈香の歴史
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沈香が日本に入ってきたのは大変古く、日本書紀にもその記録があります。淡路島に香木が漂着したという内容なのですが、なんと推古天皇・聖徳太子の時代、595年のこと。漂着した香木を、燃料としてたまたま火にくべたところ遠くまで良い香りが漂ったため、貴重品だとして朝廷に献上したのです。
そのままで香る白檀と違い、熱して初めて香りの出る沈香らしいエピソードです。今でも、淡路島西岸の枯木神社の御神体は香木です。10世紀頃には、正倉院に収蔵されている香木、蘭奢待(らんじゃたい)が伝わりました。これも伽羅に分類されます。
足利義政、織田信長など時の権力者が、蘭奢待の一部を切り取って所持してきました。特に信長と蘭奢待には多くの逸話が残されています。普通は香りというものは年月と共に消えるのですが、蘭奢待に関しては、今でも香りが残っているといいますから大変なものです。
南北朝時代には香道が発生し、それまでの権威になびかない婆沙羅大名を中心に盛んとなりました。戦国時代になると、香木の入手が権力の象徴となり、前述の信長の他、徳川家康なども積極的に香木を集めます。天下を掛けて戦う戦乱の時代は、戦いに勝って香木を得るものでもあったのです。
沈香の香りは精神を鎮静化されるものであり、戦いに挑む武士には大変大事な存在でした。そして幕府を開いた家康は、東南アジアとの朱印船貿易において、伽羅を大量に買い付け続けました。家康が集めた香木・香道具は2600点に及び、世界でも屈指の香木コレクションとなっています。