昔から日本人に親しまれ、愛されてきた「和菓子」。その中でも、とりわけ「上生菓子」は、その美しさ、風流さ、口当たりのよさから、おもてなしの場でも重宝される、日本のお菓子の代表かつ美術的菓子です。
それでは、上生菓子にはどのような特徴があるのでしょうか?
上生菓子と生菓子の違いとは?
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和菓子には、餅物、蒸し物、焼きもの、流しもの、練りもの、揚げものなど、たくさんの形状や製法のものがあります。そのため大変幅広いカテゴリーをもつのですが、和菓子の中でも高級品であるのが上生菓子といえます。まず、和菓子は大きく三つに分類されます。
一つ目が「生菓子」。流し物、餅物、練り物、蒸し物など、生の風味のある、口あたりがしっとりしたお菓子のことです。そして、「半生菓子」。こちらは、外側は乾いていますが、内側は生の風味のあるしっとりとしたお菓子のことで、最中(もなか)が代表されます。
二つ目が「干菓子」。これは落雁(らくがん)、アメ、おせんべいなどの、乾き物のことを指します。
三つ目が「上生菓子」。生菓子の中でも、練り切り、羊羹(ようかん)、こなし、求肥などの菓子を、「上生菓子」と呼んでいます。上生菓子は、しっかりとして食べ応えのある、かつ口当たりが滑らかで味わい深い風味を備えた和菓子のことで、古くから、茶席では濃茶とセットのお菓子として登場してきました。
またその風流で優美なビジュアルにより、宴席、おもてなしの場、新年、祝い事の場所などでも重宝されてきました。芸術的で美しい細工がされていたり、色が鮮やかで風流であることが特徴です。
季節を感じる上生菓子の一例
こちらの画像は、2月の上生菓子で、2月を感じられるようにデザインされています。
左上:春の野 中央上:ねじうめ 右上:うぐいす
左下:下萌 中央下:猫柳 右下:薄氷
また何かを模写していたり、自然や季節を感じられる形状をしていたり、その季節に楽しめるものであることが最大の特徴のひとつです。また昔から伝わる有名な和歌や文学になぞらえて生み出されたものも、上生菓子には多く見られます。
上生菓子自体の生地はどのようなものなのかというと、実は多種多様になっています。一般的にメジャーなのは、白あんがもととなっている「練りきり」と呼ばれるものや、「こなし」と呼ばれるものを生地とすることが多いです。
上記で例にあげた創業1926年(大正15年)、金沢の老舗「菓匠まつ井」の上生菓子は、注文の際に好きな種類を選べるのが特徴です。
お誕生日会・ママ会・お茶会など色々なシーンで楽しめるようです。
上生菓子の歴史
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今でも多くの人に愛されている上生菓子ですが、その起源は、奈良時代に生まれた和菓子が、鎖国をむかえた江時代戸に技術が勢いよく発展し、江戸や京都などの繁華街や人口集中地帯、街道町を中心に、一般庶民にも浸透していきました。その中で上生菓子を作る技術も発展し、人々にも浸透していったと言われています。
そして、その発展浸透に大きく貢献したのが茶の湯、つまり「茶道」です。茶道は細やかな美的感性や季節を感じ取り漂わせる感性が重要で、その場で和菓子も、その口当たりと美しさで、場を演出する、大きな立役者となったのです。
お茶会・茶事では、お菓子を器に丁寧にのせ、客人に振舞われます。客人はそのお菓子を目と口で楽しみ、亭主にその御名を聞くのです。
その名称の由来を一緒に楽しみ味わうのが、お茶の楽しみの一つであり、これは現代の茶席でも続く上生菓子の歴史なのです。
お茶会・茶事に合う上生菓子の一例
四季によって和菓子の種類が変わり、9個入りという点も特徴です。
上質な箱で届くことも、こちらの上生菓子の魅力です。
複数人が集うお茶会や茶事では、見た目や味の好みがあるので9個入りの方が安心ですね。
「郷菓心むら山」は、上生菓子の他に、羊羹や和菓子の詰め合わせも人気です。
羊羹や和菓子の詰め合わせも、人数によって対応できる商品ですね。
上生菓子の特別な名前「菓銘」とは
上生菓子には、もなかや、ようかん等といった名前のほかに「菓銘(かめい)」というものが付けられています。
その多くは俳句、短歌、季節、その地域ごとの名所、古くからの歴史や出来事、伝説などから付けられたものです。たとえば「初ちぎり」という菓銘。
秋に見られる、柿の実の形の上生菓子によく付けられますが、こちらは江戸中期の俳人「加賀の千代女」がよんだ俳句に由来されています。『渋かろか 知らねど柿の 初ちぎり』。
この俳句は、「秋に楽しまれる柿だが、その実が甘いかしぶいかは、食べてみないとわからない。見るだけではその中身がどのようなものなのか、そしてどうなっていくのか、誰にもわからない」といった意味なのです。
これは、いざこれから結婚し、一人のひととこれから共に生きていくことになった時の、覚悟と不安、期待と心配の入れ混じった、複雑な心境を詠ったものなのです。
かわいらしい柿の実ですが、このような意味もあると思いながらいただく「初ちぎり」は、また別の味わいを感じることができます。また、紅葉をかたどった生菓子につけられた「竜田」という菓銘。
こちらは、奈良の竜田川にちなんだもので、竜田川は、古くから紅葉の名所として愛されてきました。
「竜田姫 雨にかよいて秋ごとに 染めわたしけん 橋のもみじ葉 」
このうたは、高畠式部のよってよまれていますが、在原業平もこのようによんでいます。
「ちはやぶる 神代もきかず竜田川 からくれなゐに水くくるとは」
このように、紅葉の名所の竜田を詠んだ和歌や句は多く、現代の紅葉をながめつつ、この数々の紅葉のうたも一緒に味わえるのが「竜田」です。
これらのように、和菓子に付けられた菓銘の由来や意味を、ともに味わいながら楽しめるのが、上生菓子の特徴のひとつなのです。
上生菓子の菓銘その1【松】
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おもてなし文化で有名である京都を中心に、和菓子屋では、新年にふさわしいお祝い菓子として、松竹梅をテーマとした「賀正菓子」が店頭を飾ります。
また、茶事やお茶会などでもよく松竹梅をモチーフとした上生菓子が登場します。まず、松を菓銘とする上生菓子。
これは、『千年変わらない』という松の翠から、末永く縁起のよいものの象徴として用いられてきました。冬時期、雪をかぶった松の様子をモチーフとした和菓子がありますが、寒い中でも変わりなく続くいのちの営みという意味も持っています。