詩吟とは、文字通り詩を吟じること。漢詩を読み下したものに、独特の節回しをつけて詠うものです。
頼山陽の「川中島」で、鞭声粛粛(べんせいしゅくしゅく)~と詠われていたのが有名です。詩吟には、剣舞や詩舞のような踊りを伴うものもあります。
詩吟の歴史
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詩吟のルーツは、古事記や日本書紀の時代にあると言われています。平安時代にも、貴族の間で漢詩や和歌が盛んに詠われていました。その後実際に詩吟が行なわれたというルーツは、江戸後期にあります。当時、武家の子供たちは私塾や藩校で学問を修めていました。
学校で漢詩を詠むときに独特の節回しで詠んだことから、詩吟が始まりました。幕末の漢学者である広瀬淡窓が、九州の日田に咸宜園(かんぎえん)という私塾を開き、咸宜園への入学と卒業の歓迎会や送迎会の折に漢詩が吟じられていました。咸宜園には、全国から5000人近くが集まり学んでいたため、国内に詩吟が広がりました。
詩吟の特徴
詩吟の特徴として、まるで「唸っている」ように聞こえます。しかし、詩に節をつけて詠っている、日本の伝統芸能です。詩吟のコンクールでは、一般に漢詩と和歌が詠まれますが、俳句や現代詩など、詩であればどのようなものでも詩吟で詠うことが可能です。
また、詩の内容をしっかりととらえ、詩の描く情景や心理描写を再現することが大切です。ミ・ファ・ラ・シ・ドの五音に節や強弱をつけ、詩のイメージにあわせたテンポやリズムで詠うのが特徴です。
日本吟剣詩舞振興会では、話し言葉のアクセントを大切にし、安定した音程で芸術的に感動を与えることが重要としています。最近では、若い方でも入門しやすいように、シンセサイザーと組み合わせるなど、現代的な手法も採り入れられています。
詩吟に使われている漢詩とは?
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詩吟に使われている漢詩とは、一体どのようなものなのでしょうか。文字通り、中国の「漢」の時代に詠まれた詩という意味合いもあります。中国の詩を意味する言葉で、大きく分類すれば、古体詩と近体詩に分けられます。高校では、近体詩の五言絶句や七言絶句のような絶句を習うことが多いです。
絶句は四句から成るもので、五言絶句なら五文字の一行が四句、つまり二十字で構成されています。また漢詩では、「韻を踏む」ことが有名です。どの行の最後の文字が韻を踏んでいなければならないか、きちんと決まっており、そのルールに従って詩を作るのです。
この漢詩独特のルールに従って、日本でも漢詩が作られるようになりました。最初にご紹介しましたが、頼山陽の川中島で「べんせいしゅくしゅく よるかわをわたる」と吟じられた詩が有名です。時代劇の登場人物が吟じています。
この漢詩は、上杉謙信と武田信玄が川中島の戦いで、熾烈な争いを繰り広げた当時の状況を詠んだものです。敵に気付かれないようにそっと馬にムチを当て、千曲川を渡っている様子が偲ばれる漢詩です。
また、中国の詩人としては、李白や杜甫、孟浩然なども有名ですね。李白の「友人を送る」では、「青山 北郭に横たわり」、杜甫の「春望」では、「國破れて 山河在り」、孟浩然の「春暁」では、「春眠 暁を覚えず」と詠われています。