能楽師とは、能や狂言の舞台に立つ演者のことです。 能楽は日本の伝統芸能で、室町時代に観阿弥と世阿弥の父子によって確立されました。演技だけではなく、舞踊や謡曲、楽器も一体となったまさに総合芸術です。
演者は、主役を演じるシテ、脇役を演じるワキ、謡曲を歌う地謡、和楽器を演奏する囃子の4パートに分かれます。そのうち、シテと地謡をシテ方、ワキをワキ方、囃子を囃子方が担当し、それぞれ別のパートを担当することはありません。
また、演目の合間に演じられる喜劇を狂言といい、その演者を狂言師といいます。 これらのすべての演者をまとめて、能楽師といいます。
それぞれいくつもの流派に分かれていますが、プロとしてはかならず能楽協会会員に所属することになります。
能楽師の仕事
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能楽師の仕事は、もちろん舞台に立って能や狂言を演じることです。 しかし、能楽師として人気が高まってくると、ドラマやバラエティ番組への出演、さらに雑誌インタビューなど、さまざまなメディア関係の仕事も増えていきます。
また、能楽師は基本的に個人事業主なので、着替えや道具の準備などもすべて自分で行わなければいけません。狂言方とワキ方は芸能プロダクションが窓口となってくれますが、シテ方は公演の依頼や交渉、手配まで行う必要があります。
そしてもうひとつ、伝統を受け継いでいくために重要な仕事が、アマチュアの弟子に稽古をつけることです。 現在では、日本人はもちろん、広く海外にも伝えるために、さまざまなPR動にも関わっていくことになります。
能楽師の年収/勤務体系/福利厚生
能楽師の収入は、舞台の出演料、弟子からの月謝、メディア出演のギャラがそのおもな内訳です。 仕事の中心はあくまで舞台出演ですが、面や装束、小道具なども自費で購入するため、収支が大きく黒字となるのは一部の一流役者のみです。
そんな能楽師にとって、もっとも大きな収入となるのが弟子からの月謝です。月に1~3回の稽古で、だいたい8,000円~1万5,000円。弟子の数は多いと50人以上にもなり、かなりの月収が得られます。
その平均年収は、シテ方で540万円以上。ワキ方は330万円以上。それ以外は、220万円以上ほどです。
勤務体系は特に決まっていません。依頼に応じて、全国各地を飛び回ることになります。拘束時間も演目や演者によってまちまちで、15分から2時間以上におよぶこともあります。
また、舞台は祝祭日に行われることが多いので、平日以外は休みが取りにくくなります。 個人事業主なので、基本的に福利厚生もありません。
能楽師のメリット・デメリット
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能楽というのは、とても厳しい業界です。 内弟子のころは寝食のみが確保され、あとは給与もプライベートもいっさいありません。
掃除や料理、舞台準備などの手伝いをしながら、装束の管理や小道具の作成といった裏方の仕事を学んでいかなければいけません。
また、能や狂言の演目は古典文学がもととなっているものが多く、その教養についても身につけていく必要があります。 舞台に出られるようになっても、休日はその多くが平日です。
不定期で、2ヶ月以上も休みが取れないこともあります。 このように聞くと、デメリットも一定数あるように思います。
しかし、能楽が好きでこの世界に飛び込んだ人にとっては、内弟子のころから舞台や能面、装束などに触れられるのは最高の環境といえるでしょう。
また、日本の伝統芸能の一端を担い、自分自身がそれを受け継いでいくことは、ほかの何物にも代えがたい喜びとなるはずです。