「先日、友人と旅行に出かけたが、あまりぞっとしなかった」 「じゃあ、特に事故とかなく帰って来られて良かったね」 これを見て何か感じることはありませんか?
一見ごく普通の会話に見えますが、実は会話として全く成り立っていません。
ぞっとしないの意味
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先程の例文のように「ぞっとしない」とは怖くなかったという意味ではありません。 「ぞっとしない」の正しい意味は、「面白くない」、「感心できない」、「嬉しくない」という慣用句になります。
「ぞっとする」は、大体の場合「怖い」などの感情を表す慣用句となりますので、否定の言葉である「ない」がついたら「怖い」の反対の「怖くない」という意味だと勘違いされることが多いようです。
平成28年に行われた文化庁の調査によると、「ぞっとしない」の意味を「面白くない」と回答した人は全体の23%程度で、「怖くない」と回答した人は56%までのぼっているという結果が報告されています。
この数字を見て分かるように「ぞっとしない」を、本来の意味である「面白くない」という言葉だと理解していない人の方が数多くいることがわかります。
ぞっとしないの由来・言葉の背景
そもそも「ぞっと」という言葉には、寒くて体が震えるという意味や、身の毛もよだつぐらいの恐ろしさで体が震える感じを表している意味が知られています。
しかし、実は江戸時代後期頃までは「美しいものなどに強い感動を覚える」などの意味で使われるのが一般的でした。
それがいつのまにか時代と共に、「怖い」という部分だけが言葉の意味として広まっていったと考えられます。
ぞっとしないの例文
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では、どういった場面で使用するのが正しいのでしょうか。いくつか例文を挙げてみますので参考にしてください。
「この小説はどうでしたか?」 「私はあまりぞっとしませんでした」 この場合の「ぞっとした」は、「あまり怖い小説ではなかった」ではなく、あまり面白い小説ではなかったことを表しています。
「会社の同僚が先日、無断欠勤をしたんだ」 「それはあまりぞっとしないね」 この場面では、無断欠勤に対して「感心しない」といった意味で使用されています。
「この前誕生日だったけど、彼氏から何もらったの?」 「それが既に持っている写真集だったの。正直あまりぞっとしなかったな」 これは、あまり「嬉しくなかった」という意味で使われている場面となります。
いずれの場面においても「怖くない」と言う意味で捉えてしまい、「ホラー小説じゃなかったのね」とか「無断欠勤って怖くないってこと?」など返答してしまうと、会話として全く辻褄が合わない意味の分からないやり取りとなってしまいます。
「怖くない」という意味ではなく、「面白くなかった」、「感心できない」、「嬉しくない」といった意味が正しい言葉の表現となります。