日本の伝統を受け継ぐ後継者不足問題
日本の伝統技術はすべてが受け継がれているわけではなく、失われていくものも多くなっています。特に後継者不足は深刻で、日本全国でも数えるほどしか技術を受け継ぐ人がいないケースもあります。
伝統工芸を受け継ぐことは、便利で手軽な現代の仕事よりも後回しにされがちです。伝統工芸を受け継いでも生計を立てることが難しいことから、廃業を選ぶ人も多くなっています。いかに後継者不足を解消し、文化を維持するかが日本の課題の一つになっています。
伝統工芸品とは
伝統工芸の技術・伝統を受け継ぐ後継者不足問題について見ていく前に伝統工芸品とは何か、を見ていきましょう。
伝統工芸品は、経済産業大臣によって「伝統的工芸品」として指定されます。全国に230品目あり、その全てが以下の要件を満たしています。
①主として日常生活で使われるもの
②製造過程の主要部分が手作り
③伝統的技術または伝統的技法によって製造
④伝統的に使用されてきた原材料
⑤一定の地域で産地を形成
上記5つが法律上で「伝統的工芸品」と指定された場合の規定条件になります。
なぜ後継者不足になってしまったのか
伝統工芸品について学んだところで、なぜ日本の伝統工芸が後継者不足に悩み、伝統技術・文化の維持が難しくなっているのかを具体的に見ていきましょう。
まず、第一に産業が農林業から鉱工業にシフトチェンジしたことです。そのために原材料がとれなくなり製品製造が困難になります。また、安価な商品が海外から輸入され需要が少なくなり製品が売れなくなります。この2点で伝統工芸品を作る職人が儲からなくなり、弟子を採る余裕もなくなってしまう。その結果後継者がいなくなってしまう、という問題に陥ります。
第二に、時代の流れによって雇用形態が変化したこと。そして、高度経済成長による若者の労働観が変化したことが挙げられます。昔は”出稼ぎ”や”住み込み”といって若いときから遠方に長期間の修行を伴って技術や礼儀を教わり、伝統を継承していました。しかし、現在はそのような就職方法はほとんど見かけません。
また、若者にとって伝統工芸や職人という職業は地味な手仕事な上に福利厚生も十分に整備されておらず、職業選択の際に視野に入れるまでもないものとなっています。よって若者が集まりにくく後継者が不足してしまいます。
日本の伝統を残すための企業の取り組み
伝統工芸の後継者不足のために、様々な工夫を加える企業も誕生しています。たとえば、株式会社能作は、伝統にモダンなデザインを取り入れた商品を数多く発表していて、海外からも評価されています。特に評価が高いのは、高い鋳造技術を用いた錫(すず)の食器です。
インテリアや雑貨も手がけており、和を感じさせるフォルムと高い質感から評判を呼び、大手百貨店でも高級ブランドとして扱われています。生活の一部から日本の伝統文化に触れ、学びなおす人が少しずつ増えているのです。
グローバルに通用する日本の伝統工芸
インターネットの普及によってグローバル化は一気に加速し、様々な世界の文化や個性に触れられる機会が増えています。一方で、個性的な文化や情報に気をとられてしまい、身近にある物事を忘れてしまうことも増えています。
忘れてしまうものは価値が低いものと見ることもできますが、なくなってから大切だったと気付くものがあることも確かです。
日本の伝統文化は失われつつあるものが増えていて、触れられる機会自体が減っているのです。しかし、日本の個性や文化として生活に取り入れる人や、残すための努力をしている人も増えています。
より生活に近い形で伝統文化を見直せるような作品を作っている企業や、新しい形で和の伝統技術を日常に溶け込ませる工夫をする企業が誕生しているのです。
そういった企業の商品に触れることや、利用することが伝統技術の継承に一役買ってくれます。注目がされていないだけで世界に誇れる日本の伝統技術も多いからこそ、技術に敬意を払い、伝えることも大切なのです。
逆に、日本国内でそれほど知られていなくとも、海外ではたいへん高い評価を得ている伝統工芸品もあります。欧米圏の人々にとっては日本の個性的な文化は魅力的なものであり、たとえばハリウッド映画にも日本の忍者をモチーフとし登場人物が出てくるものもありますよね。
魅力ある日本の伝統や文化は世界に通用するものであり、日本の財産とも言えるものなのです。
日本の伝統を守っていこう
日本の伝統は日本の風土と人、歴史によって生まれたものです。様々な国から影響を受けながらも独自に進化したのも特徴で、非常にユニークな伝統も多く残っています。世界に誇れるほど珍しい文化や高度な技術も多く、日本が注目を集める理由になっているのです。
昔の人の知恵と工夫が積み重なり、現在まで残っているのが日本の伝統であり文化です。
見方をかえるだけで様々な魅力があるのもポイントで、その文化や伝統を受け継ぐために今も多くの人たちが工夫を重ねているのです。