新潟で時代の波にのまれず、代々伝統の技法を守り、曲げ物を作り続ける足立茂久商店。その足立茂久商店が作る電子レンジで使える曲げわっぱなどご紹介します。
曲げ物の歴史
新潟には寺泊山田という日本海に沿うように伸びる集落があります。昔は北国の要所として栄えた地域で、豊富な水産資源を生かした漁業、そして農業を営む人が多くいました。冬の間はいずれも閑散期に入るため、この地域では曲げ物づくりも盛んに行われていたそうです。
曲げ物とは
杉やヒノキで作られた薄い板に曲げを施して作る道具のことで、篩のほか、蒸し器、こし器などに使われます。長期間乾燥させた後、さらに馬毛や絹、真鍮製の網を組み合わせることで、製品が完成します。昔は、特に、農業用の篩(ふるい)を作る職人が多くいて、その歴史は史料によると天保13年(1842年)までさかのぼります。当時発行された「仲間取究書」という書物によると、その頃既に篩業組合まであったというのです。
昭和30年代を境に
それほどまでに栄えた篩業ですが、昭和30年代を境に衰退の一途を辿ります。というのも、農業では機械が篩に取って代わっていったのです。金物屋で使われていた道具も、木で作ったものではなく、ステンレスなどに変わっていきました。昔は、篩や正月用の餅を作るためのせいろを売って回る行商の人もいたのですが、次第に曲げ物は必要とされなくなり、職人や行商人はすっかり見られなくなってしまったのです。
そして、唯一生き残ったのが、今回ご紹介する足立茂久商店です。曲げ物を作り続けて、その技術を産業ではなく生活の中で使われる道具を作ってきたからなのです。
足立茂久商店とは
寺泊山田地域は、曲げ物の無形文化財にも指定されているのですが、現在は足立茂久商店だけが、その伝統と技術を守っています。11代目の当主は、足立照久さん。いまでは、主に、旅館や割烹の料理人や和菓子職人が使う篩や裏ごしなどの道具を製作、修理もしているそうです。
伝統の逸品は、伝統ある道具からしか作れない
日本料理や和菓子の世界も伝統を受け継ぐ職人技であり、繊細な技術が要求されます。そのため、調理に使う道具も海外から伝わってきたものや大量生産できるものは不向きで、ひとつひとつ丁寧に作られた道具が必要なのです。足立さんが作る篩は、輪を竹でできた釘や桜の樹の皮で留めるなど、細かいところにまで配慮がなされています。
また、プロの料理人や菓子職人は、より使いやすく、細やかな表現ができる道具を求めるため、オーダーメイドの商品を発注されることもあるそうです。
伝統的な技術と文化の継承が行われ、馬の毛を張った裏ごしや真鍮で作られた網を張った篩などを作る一方、足立茂久商店では、レンジで使える曲げわっぱも製作しています。この曲げわっぱは、10代目が作ったものなのですが、引きも切らぬ人気のロングセラー商品。職人技が光る商品を集めたセレクトショップなど限られた店で販売されています。
伝統の技法と知恵を現代のニーズに
自分たちが作ったものの素晴らしさをそのまま伝えるだけでなく、道具のいいところを生かしながら、より現代のニーズにフィットした形で提供する。それが足立茂久商店の魅力であり、強みでもあります。とういのも、昔に比べておせち料理を作る人も減り、家庭でふるいや裏ごしを使う機会がどんどん少なくなっていったのです。レンジを使って手軽に調理できるグッズが好まれる中、吸湿性に優れ、レンジでも使える足立茂久商店の曲げわっぱは、調理器具にこだわる一般の人にも支持されました。
曲げわっぱ以外にも、時代のニーズに応えたインテリアなど、さまざまな商品開発に取り組んだいる足立茂久商店。進化する伝統工芸をこれからも温かく見守りたいですね。
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