書画作品や掛け軸などにハンコが押されているのを見たことがあるでしょうか?それは、一般的な印鑑とは違った意味や効果を持つ「落款印(らっかんいん)」と呼ばれるものです。
今回は、落款印(らっかんいん)についてご紹介します。
落款印(らっかんいん)とは
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落款印とは、落成款識印(らくせいかんしいん)の略で、主に書道や絵画などの書画作品を完成させた際に作者が押す印のことです。
一般的な印鑑とは異なり、落款印は本人であることの証明や承認の意味は持たず書画の”完成”と”自身の作品である印”としての意味を持ちます。
書画作品に押す場合は、『引首印(いんしゅいん)』『姓名印(せいめいいん)』『雅号印(がごういん)』の3種類の印を押すことが正式とされており、この3つを「三顆印(さんかいん)」と呼びます。
落款印の使い方
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上記にもある通り、落款印は何か重要な書類に押すものではなく作品が完成した際やその人の作品であることを証明するための印です。また、それだけではなく落款印を押すことでその作品をより引き立たせる効果もあります。
作品に落款印を押す際、主に3つの捺印(なついん)が必要になります。それが、既述にもある『引首印(関防印)』『雅号印(朱文印)』『姓名印(白文印)』です。
引首印(関防印)が作品の右上に、姓名印(白文印)が作品の左中央下、雅号印(朱文印)が白文印の下の位置になります。それぞれの意味や使い方は以下で詳しく見ていきましょう。
落款印の選び方
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サイズ
まず、落款印を選ぶ際に重要なポイントの1つがサイズです。作品によっても落款印のサイズは異なるのでどんな作品に押すのかを考慮しながら選ぶと良いでしょう。
例えば、短冊のような小さな作品に大きな落款印を押したり、逆に半紙のような大きな作品に小さな落款印を押しては見栄えが良くありませんね。ですので、その作品にあわせて適したサイズの落款印を選びましょう。
作品に適した落款印のサイズの目安は以下を参考にしてみてください。
短冊 | 9mm |
---|---|
葉書 | 9~12mm |
色紙 | 9~15mm |
半紙 | 18~21mm |
印材
次に、落款印を選ぶ際に押さえておきたいポイントが印材です。木材や石材など様々な印材がありますが、その種類によって印の味わいが異なります。
中でも、落款印に使われる特殊な石材「巴林石(ぱりんせき)」は根強い人気があり、深い味わいと高級感のある印材です。巴林石(ぱりんせき)は、モンゴル産の石材で比較的もろい石です。なので、丁寧に扱わなければなりません。
印材である柘(つげ)は、安価で手に入れやすく一般的な印鑑でも用いられている馴染み深い印材の一つです。この木材は将棋の駒や櫛(くし)などにも使われており、耐久性があるため「安価で丈夫なものが良い」という方にはおすすめの印材でしょう。
落款印の種類その1「引首印(関防印)」
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引首印(関防印)とは、書画作品などの右上に押す落款印になります。書き始めの”しるし”や”飾り”として作品全体のしまりを良くするために押します。主に、縦長の形をしており朱文・白文どちらでもかまいません。
引首印(関防印)に彫る文字は、座右の銘や格言など自分の好きな言葉を入れることができます。ただし、どの季節でも関係なく使用できる言葉にしましょう。
落款印の種類その2「姓名印(白文印)」
姓名印(白文印)は名前の通り、姓名または氏名を彫刻した落款印になります。これを押すことで”自分の作品である”ことを証明することができるのです。白文印は文字部分が白く抜けるものなので、文字部分を彫ります。
一般的な印鑑だと、苗字または姓のみのものが多くみられますが、書画作品などに押す正式な姓名印(白文印)の場合、苗字または姓のみで押すことはありません。必ず姓名か氏名となっており右上から左下にかけて彫られます。
落款印の種類その3「雅号印(朱文印)」
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雅号印(朱文印)とは、その名の通り雅号を彫刻した落款印のことです。雅号(がごう)とは、画家や書家などが本名とは別につける名前、ペンネームのことをいいます。
雅号でよく知られている歴史的な人物では、「夏目漱石(夏目金之助)」や「森鴎外(森林太郎)」らが挙げられるでしょう。また、「大久保利通(甲東)」や「伊藤博文(春畝)」など、あまり知られてはいませんが雅号を持っている歴史的著名人もいます。
しかし、現代ではなかなか雅号を持っているひとは多くありません。ですので、雅号を持っていない場合は名を彫刻します。朱文印は文字部分が赤くなるので文字周辺を彫り、文字は右から左へ彫刻します。
なお、謹書の場合には本名を彫刻しなければなりません。
落款印の種類その4「押脚引(遊印)」
上記3つは三顆印(さんかいん)と呼ばれる書画作品には必ず必要な落款印となりますが、押脚引(遊印)は、作品の空白部分に押されます。彫刻する文字は、引首印(関防印)と同様に好きな文字を入れて良いとされています。
引首印(関防印)と異なる点は、捺印の場所といえるでしょう。引首印(関防印)は作品の右上と捺印箇所が定められていますが、押脚引(遊印)は空白部分であればどこでもかまいません。一般的には右下の空白部分に見られます。