日本には慣用句や比喩表現が多くありますが、その中でも刀に関する言葉「懐刀(ふところがたな)」をご存知でしょうか?この言葉は「あの男は社長の懐刀だ」などというように使われます。
戦国時代の武将である山本勘助は武田信玄の「懐刀」として有名です。では、この「懐刀」の意味とは何でしょうか。由来や類語・対義語など併せて見ていきましょう。
【意味】 | 重要な計画や相談に参画している上司や主君に忠実であり絶大の信頼を得ている部下のこと。 |
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【由来】 | 護身用に懐(ふところ)に入れたり、帯の間に挟んで持ち歩いていた短刀のことから。 |
【類語】 | 「側近」「右腕」「腹心」「片腕」 |
【対義語】 | 「眉唾物」「八方美人」「不心得者(ふこころえもの)」 |
【英訳】 | 「be a tower strength to one」「be one’s right-hand man」「the most valuable helper」 |
懐刀の意味とは
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懐刀(ふところがたな)の意味は、機密に参与する上司や主君の部下のことです。つまり、重要な計画や相談に参画している上司や主君に忠実であり絶大の信頼を得ている部下を指します。それだけ信頼されているということは知識や技術も長けていなければなりません。
懐刀(ふところがたな)は主にビジネスやスポーツ、政治、そして戦争などにおいて用いられます。上記の通り、将軍や大将に仕える者に対して「懐刀」が使われます。
懐刀の語源・読み方をチェック
この「懐刀」という言葉、なかなか読むことが難しい漢字です。懐(ふところ)に刀(かたな)で「懐刀(ふところがたな)」と読みます。この読み方は懐刀の由来を見ていくとその理由がわかります。では、実際に懐刀の由来について見ていきましょう。
「懐刀(ふところがたな)」は、もともと、護身用に懐(ふところ)に入れたり、帯の間に挟んで持ち歩いていた短刀のことを指していました。この短刀はいざという時に身を守るためのもの、頼りになるものであったため、そこから信頼できる腹心の部下という意味となったのです。
懐刀の使い方・例文をチェック
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懐刀(ふところがたな)の意味と由来がわかったところで、実際の場面でどのように用いるのか、使い方を例文で見ていきましょう。
「黒島亀人(くろしまかめと)は歴史上でも名高い海軍軍人山本五十六(やまもといそろく)の懐刀であった。」
黒島亀人、山本五十六はともに明治期に実在した軍人です。山本五十六は黒島亀人に絶大な信頼を寄せており、「山本の牧羊犬」とも呼ばれるほどでした。まさに、山本五十六の懐刀ですね。
「ある会社が不祥事を起こしたため、先日行われた取締役会で元社長の懐刀であった取締役が辞任した。」
こちらの例文では、懐刀である取締役が社長への忠実な態度を示していることがわかります。機密な計画や相談事がもし外部に漏れてしまった場合も社長の懐刀である部下は忠誠を忘れません。それでこそ懐刀なのですね。
懐刀の類語・対義語
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では、ここで懐刀(ふところがたな)の類語と対義語を見ていきましょう。懐刀(ふところがたな)以外にも同じような意味を持つ言葉が多くあります。
懐刀の類語
懐刀の類語としては以下のものが挙げられます。「側近」「右腕」「腹心」「片腕」です。
「側近(そっきん)」の意味としては、権力者や位の高い人のそばにつくことや付いている人をいいます。権力者や貴人がそばに置く、ということはその人に信頼をおいているということになるので、懐刀の類語といえるでしょう。
「右腕(みぎうで)」とは、上司や社長などが最も信頼を寄せている有能な部下に対して用いる言葉です。古来中国では右という字が優れたものを意味することや、古くより右利きが多かったことからこの言葉ができたとされています。
「腹心(ふくしん)」とは漢字の通り、腹と心。そこから心の奥底を意味するようになり、心の奥底に秘めている思いやどんなことでも打ち明けて相談できること、または人を指しています。
「片腕(かたうで)」は最も信頼できる有能な部下や補佐役のことをいいます。この言葉も懐刀や腹心の類語として挙げられるでしょう。
懐刀の対義語
懐刀(ふところがたな)の対義語は、上司や主君の信頼を得ていないことを指す言葉をいいます。
つまり、信用できないことを意味する「眉唾物」誰に対しても良い顔をして振る舞う「八方美人」、邪(よこしま)な考えを持つ「不心得者(ふこころえもの)」などが懐刀(ふところがたな)の対義語として挙げることができるでしょう。
上記に挙げた3つの言葉どれもが懐刀(ふところがたな)と相対して信頼できない人に用いる言葉といえます。
懐刀・右腕・腹心の違いとは?
懐刀(ふところがたな)の類語・対義語を見ていきました。その中でも、特に類似した意味を持つ「右腕」と「腹心」。懐刀との違いはどこにあるのでしょうか?実際に詳しく見ていきましょう。
この3つの言葉には微妙なニュアンスの違いがあります。上記にも述べている通り、「右腕」は、上司が最も信頼を寄せている部下に対する際に用いる言葉です。一方で「懐刀(ふところがたな)」は最も信頼を寄せており、かつ、技術や知識にも長けている者に対して使う言葉となります。
では、「腹心」の場合はどうでしょう?腹心は絶大な信頼を寄せ、どんなことも打ち明けられる人を指す言葉です。一方で「懐刀(ふところがたな)」は絶大な信頼を得ており、機密な計画にも参画している者に対して使う言葉となります。
こうして見てみると、わずかではありますが違いがあるといえます。「懐刀(ふところがたな)」という言葉は信頼を持つ・知識や技術もある・機密な計画にも参与しているために、「右腕」や「腹心」より上司と密接な関係があり有能な部下であるということがわかる言葉ですね。