土佐和紙、1000年の時を超えて受け継がれる伝統工芸品

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コピー用紙にはじまり、手紙やメモ帳、カレンダーなど私達の周りには紙を使った製品がたくさんあります。工場で量産される紙が多い中、日本の伝統的な和紙は、いまでも楮(こうぞ)など原料の生産から仕上げにいたるまで、ほとんどの工程を手作業で行っているのです。


なかでも1000年以上の歴史を誇る高知の土佐和紙は、世界からも注目される工芸品としてその価値を内外で認められています。土佐和紙の歴史や作り方をご紹介します。

土佐和紙とは

土佐和紙は、高知県の中央部に位置するいの町の特産品です。仁淀ブルーと言われる美しく、澄んだ清流に注ぐ湧き水や、豊かな山々で育まれる楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)を主原料とし、自然の材料を使って作られる上質な和紙。


材料によって紙のすき方も変わってきます。なかでも世界一薄いという土佐典具帖紙 (とさてんぐじょうし)は、「かげろうの羽」にたとえられ、向こう側が透けて見えるほど薄いにも関わらず丈夫なことでも知られています。

人間国宝ゆかりの「浜田兄弟和紙製作所/HAMADAWASHI」

土佐典具帖紙は、人間国宝の浜田幸雄さんの後を継ぐ四代目の兄弟が「浜田兄弟和紙製作所・HAMADAWASHI」として、伝統技法を継承しつつ和紙の指輪やさまざまなアートワークにも取り組んでいます。また、土佐和紙はカレンダーやメモ帳など私達の身近にある道具にも生かされ、新しい和紙の使い方など常に進化し続けているのです。

土佐和紙の歴史

土佐和紙は、平安時代の「延喜式(えんぎしき)」と言われる書物にも出てくることから、1000年以上の歴史があると考えられています。「延喜式」の中には、中男作物(ちゅうなんさくもつ)という租税として土佐和紙を貢納したという記録があり、4人の造紙手が年間2万枚の和紙を作っていたそうです。

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さらに時を経て、江戸時代後期、土佐和紙の名を広めたのは「土佐七色紙」という色紙です。土佐七色紙は布の染色法を取り入れて作られた、青土佐色、萌黄、紫、柿、桃、浅黄、黄の七色の紙です。土佐藩城主の山内一豊に貢がれ、後に山内一豊が江戸幕府に献上して以来、土佐七色紙は幕府指定の献上品「土佐藩御用紙」になりました。

その後、代々御用紙漉きの家に生まれた吉井源太という人物が、1860年に大型の簀桁(紙を漉く「すけた」という機械)を発明したため、土佐和紙の量産が可能になり、生産量は2倍~3倍に増えたといいます。吉井源太が作った紙は30種類以上、活躍の場を土佐から関西など全国に広めていったそうです。

そして、明治時代中期には、全国一の生産規模にまで発展を遂げたという土佐和紙。1973年には土佐典具帖紙が国の無形文化財に指定され、1976年には土佐和紙が国の伝統的工芸品に認定されました。

土佐和紙の作り方


和紙の原料となる楮は水はけの良い、山の斜面で育てられます。楮を伐採したら、原料である木の皮をはぎ、天日干しにします。乾燥した楮を一昼夜水に浸した後、石灰などが入ったアルカリ性の薬品で煮て、水中に浸けてアク抜きをします。2~4日かけてアクを洗い流し、さらに手作業で不純物を取り除きます。

不純物を取り除いた楮を機械で叩き柔らかくし、ピーターという機械でさらに繊維を細かく砕きます。また、手すき和紙に欠かせない原料「トロロアオイ」の根です。この根の粘りが強い成分を取り出し、楮などの原料を水槽に入れてよく混ぜ、紙を漉いていきます。

紙を漉くのには、漉桁(すけた)という細い竹のすだれのようなものを使うのですが、そこに原料の液を汲み込み、漉桁を揺すって繊維同士を絡み合わせます。漉いた紙は重しをして水を切り、一枚、一枚広げて乾燥したら完成です。トロロアオイの粘りがあるため、紙を一枚ずつはがす作業や広げて乾燥する時に、紙は簡単には破れません。

土佐和紙を作る用具

土佐和紙が歴史とともに発展した背景には、和紙を作る用具を作った職人の功績があります。和紙を作り始めた初期の頃には、紙すきをする人が用具も作っていたと考えられていますが、用具を作る専門の職人も誕生しました。


昭和50年には、土佐手漉和紙用具製作技術保存会が無形文化財に指定され、さらに翌年、国手漉和紙用具製作技術保存会が文化財保存技術保持団体に認定。和紙だけではなく、それを作る用具の文化的価値も認められたのです。

そして、竹ひご、萓ひご、編糸、絹紗織りなどの基本素材の職人は、高知県だけに集まっています。つまり、優れた和紙を作るための用具づくりの拠点も高知にあるのです。

科学では出せない粋さがある土佐和紙

高知の美しい自然が生んだ土佐和紙。江戸時代に七色の和紙が作られていたというのですから驚きです。そのナチュラルで上品な風合いは、科学の力で作られる紙とは別の魅力にあふれています。文字を書くための道具としてだけでなく、美術品の修復などにも使われるという土佐和紙。高知県にある「いの町紙の博物館」では土佐和紙にまつわる各種展示を見られるほか、実際に和紙を漉いて紙を作る体験もできます。ご興味のある方は、足を運んでみてはいかがでしょうか。

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