郷土料理なめろう<外房の漁師料理:沖膾とはばのり>

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

外房のお魚事情

千葉県の南東部、洲崎から太東岬辺りまで、太平洋の荒波が直接押し寄せる外房は、磯浜が多く、洲崎も小湊もそうですが外房には勝浦、夷隅と漁港が多く点在しています。

磯根漁業が昔から盛んで、アワビやサザエ、ワカメやテングサ、ヒジキなどの産地であるとともに、黒潮が北上し親潮が南下してくる海流に載って来るさまざまな魚介類が豊富に水揚げされています。

イセエビと言えば伊勢湾かと思いきや、イセエビも日本一の水揚げ量を誇っており、アワビ漁も有名です。マダコやサザエのように今や外房のブランド品となっています。

さらに外房ではマダイ、ヒラメ、トラフグといった高級魚から、ホウボウ、イシガレイ、カワハギ、ヒラマサ、ブリ、イサキ、アジ、サンマ、イワシなどお馴染みの魚まで多種多様に水揚げされます。

ちなみに小湊漁港を抱える内浦湾には、日蓮上人の伝説で有名な鯛の浦があり、普通、30メートル以上の海の深い所を回遊している鯛が10〜20mほどの浅い所で大量に群れていて、その変わった生態の原因はまだ謎だそうです。そして鯛の群れる200ヘクタールあまりの区域は特別天然記念物に指定されており、そこの鯛は捕獲禁止になっています。

出典:ウィキペディア 特別天然記念物、鯛の浦タイ生息地。海面に浮上した真鯛の群れ。

アワビは昔から干して高級中華料理の材料として取引され、荒海に揉まれて身の締まった伊勢エビは市場で高く評価されています。こうしてみると外房は鮑にイセエビ、マダイにヒラメと高級魚のオンパレードです。

漁師料理のなめろう。魚の新鮮さが決め手

高級魚ひしめく市場とは反して、素朴な半農半漁生活のなかで育ってきた郷土料理もあります。新鮮な魚介類に恵まれた当地では、捕れたてのアジやサンマ、いわしを使った漁師料理といわれる、「沖膾、なめろう」はそうした郷土料理の一つです。

初めて出会ったのは30年ぐらい前、小湊あたりの海岸沿いの素朴な食堂で供されていて、その素朴な美味しさに感動したものです。今では都内の居酒屋などでも見かけるようになったようですが、酢で仕立てるものと味噌仕立てのものがあります。

どちらも、新鮮なアジやサンマを包丁で叩いて細かくし、粘りが出るくらいまで叩きす。生姜や葱、シソの葉などを叩き混ぜるのは、鯵の叩きと同じですが、滑らかになるくらいよく叩くところが叩きとは異なる点です。

味噌を混ぜる方は一緒に叩き混ぜて完成です。平らに皿に盛りつけ、包丁で碁盤の目のように筋を入れたりします。酢で仕立てる方は、皿に平らに盛りつけたら、三杯酢か二杯酢を少し脇に溜まるぐらい張ります。

酢や味噌は生臭さを抑えてくれます。酢を張るのは、冷蔵庫が無い時代に保存の役目を果たしたのかもしれません。

なめろうの豆知識

アジやイワシなど青背の魚に多く含まれるエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸といった不飽和脂肪酸は、血液をサラサラにしてくれると先頃評判ですが、酸化しやすく、その効果を期待するには、新鮮さと高温で加熱しない、空気に触れないということが大事です。酢をかけることで、抗菌、防腐作用とともに空気に触れにくなり、また、食欲をそそり胃酸の分泌を高めてくれます。

また味噌を混ぜた方を貝殻などに詰めて網でやいたものを山家(サンガ)焼きと言いますが、こうして生ものを日保ちさせて山の方の人に持って行ったりしたことからそう呼ぶようになったとか。山と言ってもさほどの山奥ではなく、軽く陸を指していたものと思います。なにしろ山が海に迫っていますから。

はばのり

そうした地元の人がよく行く食堂で、わかめより美味いと言って出して来てくれるのは、はばのお味噌汁でした。「はば」または「はばのり」。当時も貴重品だという話でしたがほとんど地元で消費されるようで、今でも冬の時期に干した物が地元のお店に出ているかなというぐらいです。原因としては、海の環境汚染や採取の手間など色々な事情があるようです。

はばは「ハバを効かせる」という縁起物で、正月の雑煮に欠かせないもの。寒風の中、岩場で採取し、簀の子に広げて乾燥させた手作りハバノリを香ばしく炙り、手で揉んでたっぷり雑煮に散らすのだそうです。

ハバノリの栄養分はカルシウム、鉄分、亜鉛、銅などのミネラル類、βカロチン、B1、B2、C等のビタミン類といった微量栄養素や食物繊維が豊富で、海のエキスといったところです。

いわゆるアサクサノリは紅藻で、ハバノリは褐藻、同じ海藻でもノリと呼ぶにはかなり遠い親戚のようで、味噌汁に入っていたものは食感もどちらかというとワカメに近い物でした。

乾物を炙ったものはアオサの風味を濃くしたような感じで、大変美味しいです。今となっては貴重な高級品となってしまったようですが、ぜひ一度ご賞味ください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加