日本には、雨の種類を言いあらわす言葉がたくさんあります。私たちが日常的に使っているものだけでも、にわか雨や通り雨、長雨、小雨、霧雨など片手で収まりきらないほど。
その言い回しも、雨の降り方をとらえたものから、季節によって呼び方を変えるもの、物語性を持たせたものなど、情緒あふれるものがたくさん。その数をすべて合わせると、数百を軽く超えるともいわれています。今回は、そんな日本独自の雨の呼び名を、季節や降り方に分けてご紹介します。
雨の種類と呼び名(季節)
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まずは季節による雨の表現方法から。日本には四季があります。そのため、季節の情景に合わせて、雨の呼び名も変わってきます。あなたが知っている呼び名はいくつありますか?
春の雨
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「春雨(はるさめ)」
春雨は、文字どおり、春に降る雨の種類をあらわした言葉。3月下旬から4月にかけて、不安定な天気が続くころにしとしとと降る雨のことを呼びます。
春の季節風がおさまってから降り始め、狭い範囲で絹糸のように細い雨がしっとりと降り続くのが特徴。ちょうど桜の散るころに降るので、「花散らしの雨」とも呼ばれることがあります。
「春雨」というと、デンプンを原料とした食品ほうが思い浮かぶ人もいるでしょう。こちらは鎌倉時代から伝わるもので、「製造過程で生地を熱湯のなかに落とす様が、まるで春雨のようだ」という意味から名付けられたといわれています。
梅雨の雨
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梅雨は、5月から7月にかけて雨が多く降る季節のこと。梅雨入りや梅雨前線など、天気予報でも使用されているので、雨の種類としては現代でもなじみがありますよね。その由来は、ちょうど梅の実が熟すころの雨だからという説や、カビが生えやすいことからきた「黴雨(ばいう)」が「梅雨」になったなど、諸説あります。
この梅雨からも、さまざまな種類の雨をあらわす言葉が派生しています。
「卯の花腐し(うのはなくたし)」
卯の花は、旧暦の4月から5月頃に咲くので、その時期に降る雨のことを呼びます。また、この時期のくもり空を「卯の花曇」とも呼びます。
「走り梅雨」
梅雨に入る前の5月中旬から下旬にかけて降る雨のことを指します。
「送り梅雨」
梅雨の終わりに降る雷をともなう種類の雨。
「戻り梅雨」
梅雨が明けたあと、再び続く種類の雨を指しています。
夏の雨
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「催涙雨(さいるいう)」
催涙雨とは、7月7日の七夕に降る雨のこと。ほかにも「洒涙雨」や「七夕雨」と呼ばれることもあります。七夕は、織姫と彦星が一年でたった一日だけ逢える日。
しかし、その日に雨が降ると天の川の水かさが増してしまい、二人は逢えなくなってしまいます。このとき、2人が流す涙にたとえて生まれたのがこの言葉。
また、もう一説では、「二人が別れを惜しんで流す涙からきている」ともいわれています。いずれにしても、古くから伝わる物語に雨が降る情景を重ね合わせる、昔の日本人の情緒豊かな感性がうかがえる言葉です。ちなみに、前日の7月6日に降る雨は、彦星が自分の牛車を洗う水ということで「洗車雨」と呼ばれます。
旧暦の七夕は現在の8月にあたり、ちょうど立秋を過ぎたころ。しかし、新暦の7月7日は梅雨の時期と重なって、雨が降りやすい日となってしまいました。しかし、この催涙雨という言葉を通して見れば、雨の七夕にもまたロマンチックな想いを馳せることができますね。
秋の雨
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「秋雨(あきさめ)」
秋に降る雨を表した言葉。夏から秋にかけての時期に発生する秋雨前線によって降る、冷たい長雨のことを呼びます。「秋の長雨」や「秋霖(しゅうりん)」「すすき梅雨」などと呼ばれることも。
台風シーズンと重なることも多いため、夏の暑さも少しずつ和らいで涼しくなり、秋めいていく時期でもあります。
同じく雨が降り続く梅雨との違いは、明確な「入り」や「開け」の定義がないこと。また、毎年必ず発生するわけではないことが挙げられます。
冬の雨
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「時雨(しぐれ)」
時雨は、秋から冬にかけて一時的に降る種類の雨。あまり強くない小雨で、降ったり止んだりとはっきりしない天候を表しています。同様に、すぐ止んでしまう雨のことを「通り雨」と言いますが、時雨はあくまで初冬に降る雨のみを指して使われるのです。
その時期の季節風は、対流雲を次々と日本海へ送り、冷たい雨を降らせます。密集した雲のかたまりから断続的に降るのが特徴で、やや強いものの、雨量はそれほど多くありません。
古くから人々の関心を集め、「万葉集」でもっとも多く使用された雨の種類としても知られています。冬の季語として俳句にも詠まれ、かの松尾芭蕉の忌日は「時雨忌」とも称されていますよ。
また、その音を自然や虫に見立て、「松風の時雨」「川音の時雨」「蝉時雨」などといった風情ある言葉も作られています。