滋賀県近江の郷土料理「鮒ずし」の歴史、食べ方、作り方

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鮒ずしといえば、あの深いオレンジ色の卵と独特の酸味と香りが頭をよぎります。滋賀県の近江地方では昔から正月などハレの日には欠かせない逸品。どこの家庭でも鮒ずしは作られていたそうです。今では高級な嗜好品として名高い鮒ずし。その歴史と製法、食べ方についてお話しします。

鮒ずしのルーツ「熟れ寿司(なれずし)」

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鮒ずしのもともとのルーツはタイ北部から中国の雲南省あたりの地域だと考えられています。そして、そのあたりで作られていたのは、鯉などの淡水魚を使った熟れ寿司でした。その熟れ寿司の製法が1,400~1,500年前に大陸から水田稲作農業が伝わると時を同じくして日本に伝来したそうです。

熟れ寿司は寿司とはいうものの、現代の寿司のように米を食べるわけではなく、あくまでも魚介類や鹿肉、イノシシの肉を漬け込む発酵材料として使われてきました。食材にしっかりと塩をまぶして米飯に漬け込むと、やがて米飯が糖化して乳酸発酵します。

そして、その間にタンパク質が熟成して旨みが増し、さらに乳酸の働きで長期保存も可能になるのです。いまでも滋賀県の郷土料理「鮒ずし」をはじめ、鮎やサバの熟れ寿司を作っている地域もあります。

鮒ずしの歴史

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平安時代に編纂された法典「延喜式(えんぎしき)」には、当時のさまざまな食物が出て来るのですが、熟れ寿司もそのひとつです。そして奈良時代になると、近江や若狭からアワビやイガイ、鯛の熟れ寿司が朝廷に貢がれた記録が残っています。

当時の熟れ寿司は庶民の口に入るようなものではなかったのですが、一方、鮒ずしは、中国奥地で作られていた鯉の熟れ寿司の製法が近江に伝わって以来作られるようになったと言われています。

当時は田んぼも整備されておらず、梅雨の時期に大雨が降ると川の水が田んぼに溢れ出し、鮒ずしの原料となるニゴロブナが産卵のために遡上してきたそうです。その数はまるで水面が盛り上がるほどだったとか。

昔は、漁獲量が豊富な鮒の保存方法のひとつとして鮒ずしが一般家庭で作られていて、それぞれ家庭の味があったそうです。お正月ともなると、ちょうど食べごろになった鮒ずしの木樽を開けて、客人をもてなしたといいます。

出典:魚類図鑑

しかし、昭和60年頃を境にいまではニゴロブナの数が激減。その後はすっかり高級珍味として、料亭や鮒ずしを代々作ってきた店で伝統的な手法を用いて作られるようになりました。ただ、近年、また地酒ブームも手伝って、また乳酸菌効果の滋養食としても再び注目されています。

鮒ずしの作り方と食べ方

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鮒ずしの作り方

かつては家庭でも保存食として作られていた鮒ずし。産卵期のメスのニゴロブナを使って作ります。まず、エラから内臓を取り除く坪抜きを行い、血合いをきれいに洗ってエラのところに塩を詰め込みます。木桶やポリ桶に鮒をきれいに並べて落し蓋の上に重しを置いて3ヶ月間熟成しますが、その工程は塩きりと呼ぼれています。

出典:鮒寿司は騒ぐほど臭くないし、とてもうまい(デイリーポータルZ)

塩きりが終わった鮒を流水で洗って塩を取り除き、1日ほど陰干しします。その後、エラにご飯を詰め込んで再び漬け込み、熟成させるのです。熟成期間は約半年~2年間。好みのところで取り出し、ご飯を除いて薄く切って楽しみます。

鮒ずしの食べ方

発酵食品の鮒ずしは独特の酸味や香りがするので好みが分かれるところ。しかし、薄くスライスしたものを口に含んだまま吟醸酒をぐいっと口に含むと得も言われぬ旨みと芳香が広がります。

また、ご飯の上に鮒ずしの切り身を乗せ、鮒ずしについている発酵した米を適量と塩少々を振って、お茶漬けにしても美味しくいただけます。塩昆布やとろろ昆布と一緒にお茶漬けにするのもおすすめです。

風邪をひいた時などは、鮒ずしに熱いお湯をかけたものを飲むと乳酸菌効果で発汗が促され、解熱を促します。乳酸菌なのでお腹を調子を整える効果も期待できるそうです。

鮒ずしお取り寄せ

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鮒ずしは滋賀県の郷土料理のお店や料亭で購入することができます。そのなかからご紹介するのは、お取り寄せができる老舗の名店「総本家 喜多品老舗」です。こちらは創業400年以上を誇る鮒ずしの老舗。今も伝統を守って変わらぬ製法で鮒ずしを作り続けています。

子持ちニゴロブナを塩漬けにした後、近江高島産こしひかりで1年以上漬け込むという鮒ずし。鮒ずしを熟成させる蔵には木樽が並び、時代を超えて息づく菌が鮒ずしの味わいを深めます。

商品は、たっぷり卵が入った「鮒の飯漬け」、飯漬けをさらに酒粕で漬け込んだ甘い香りと優しい味わいの「甘露漬け」、鮒ずしを刻んだものと発酵したごはんを混ぜ合わせた「鮒ずし発酵和ごはん」が用意されています。「鮒ずし発酵和ごはん」はなすやきゅうりなど野菜を漬物にする調味料としても使えます。

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