螺鈿とは
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螺鈿(らでん)とは伝統工芸である漆工芸品の加飾法の一つです。
貝殻の内側に真珠層と呼ぶ光沢を帯びた虹色の部分がありますが、それを板状にして文様に切り出し、漆地や木地などの器物の彫刻が施された面にはめ込んでいく技法、またはその技法を用いて作られた工芸品を指します。
螺鈿は漆器や帯などによく使われていて、はめ込んだ後の貝に更に彫刻を施す場合もあります。 厚貝法、薄貝法、蒔貝法、割貝法や裏彩色など、技法が数十種類も存在します。 螺は主に螺旋状の貝のことで、鈿は飾ったり散りばめたりすることを意味しています。
また、貝の裏面に金箔や銀箔を裏付けしたり着色したりしたものを使用した螺鈿を、色底螺鈿と呼んでいます。
螺鈿の貝には厚貝と薄貝があり、厚貝は乳白色で真珠のような光沢がありますが、薄貝はその膜により青や赤の色の変化があります。歴史的には厚貝が最初でしたが薄貝により青い色が出るようになってからは、螺鈿といえば青貝ともいわれるようになりました。
螺鈿の材料となる貝の種類
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螺鈿に用いられてきた貝には、ヤコウガイ(夜光貝)、シロチョウガイ(白蝶貝)、クロチョウガイ(黒蝶貝)などがあります。
他にもカワシンジュガイと呼ばれる青貝や、アコヤガイ、それに近代から特に使用が増えているアワビなどがあります。 また、亀の甲羅の鼈甲(きっこう)や珊瑚(さんご)や琥珀(こはく)、更には金銀や宝石類が螺鈿に使われた場合もあったようです。
螺鈿の歴史
出典:写真AC
日本では奈良時代に中国の唐から螺鈿が伝わり、琥珀や鼈甲と組み合わせて楽器の装飾に用いられたりしていました。
平安時代になると螺鈿技術は急速に発達し、蒔絵と併用する装飾技法が盛んに行われました。また、室内の調度品だけでなく建築の装飾にも施されるようになり、鎌倉時代まで当時の流行となりました。
鎌倉時代になると螺鈿は鞍の装飾として人気を得、安土桃山時代にはヨーロッパとの貿易で螺鈿は産業として飛躍的に成長しました。
輸出用に蒔絵と螺鈿とを組み合わせた調度品やコーヒーカップなどが作られたのですが、それらはヨーロッパの人々に高級品として高く評価されました。
この頃から江戸時代にかけては技法も特に充実し貝の染色も行われ、調度品や装身具、刀装具などに多用されていたようです。
江戸時代に入っても引き続き螺鈿は人気を博したままでしたが、鎖国によってヨーロッパとの貿易が縮小されたため、螺鈿職人は日本国内用に螺鈿製品を作り続けました。
螺鈿細工の作り方
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螺鈿細工の工程は、長く複雑な過程を辿ります。 まずは下地の作業です。
【下地作業】
①形が形成した物に、生漆を刷り込みます。
②凹凸を慣らすために、錆に砥石粉と水を合わせた「錆移し」を使い木目に「めすり」をします。
③小口という蓋が合わさる箇所に和紙または布を貼り木地を補強します。
④下地として輪島の砥の粉などの地の粉を塗ります。 このように木地を滑らかに平らにさせていくのが下地の行程です。
次に漆塗りの作業です。
【漆塗り作業】
①刷毛で漆を塗っていき、炭で表面を水研ぎして平らにし、刷毛の跡を綺麗にします。
②何工程も塗りと水研ぎを繰り返し、漆の質感や平坦な塗面を作り上げていきます。
最後が螺鈿を貼りつける加飾の作業です。 いよいよ貝を使いますが、使用する貝の厚みによる厚貝・薄貝の区別があり、工程も若干異なります。 貝の厚みは、厚貝は0.4ミリから1ミリ、 薄貝は0.09ミリから0.3ミリほどです。
薄貝は貝を薬品で煮て薄く剥がしたりすることもあり、その場合は厚さが0.1ミリから0.2ミリと非常に薄くなりますので、裏に胡粉などを施すことも多いです。
【厚貝の加工の仕方】
①糸のこで貝を切り抜きます。
②仕上げた表面に模様を彫ります。
③研いで滑らかにした貝を、彫った部分の飾りの形に切って嵌めます。
④蒔絵を施し磨き上げます。
【薄貝の加工の仕方】
①刃物で貝を切り抜きます。
②仕上げた表面に、手触りを滑らかにして裏に漆を塗った貝を貼り付けます。
③貝の上からも漆を塗り研ぎ出します。
④蒔絵を施し磨き上げます。