「いぶし銀のようなプレイヤー」などと、スポーツ選手や俳優を指してしばしば言います。言われる人は、決して派手な人でなく、その道の通好みである場合が多いでしょう。
言葉というのは不思議なものです。なにかを例えている言葉であるのは明らかなのに、「健康のバロメーター」という言葉のバロメーター(気圧計)など、たとえがなんなのか知られていないものもしばしばあります。
「いぶし銀」というのもそういった言葉で、「いぶし銀」と例えられる人は現にいるのに、「いぶし銀」がなんなのかを知る人は少ないかもしれません。あなたは「いぶし銀」の意味をご存じでしょうか?
いぶし銀の意味
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いぶし銀とは、文字通り「いぶした銀」のことです。「燻す」という字は「燻製」などにも用いられています。食物に様々な種類の煙を浴びせて風味を変え、保存することを「燻製」といいますが、いぶすというのはこのように煙を立てることを言います。
今でいう蚊取り線香を「蚊いぶし」などというのもこれです。「いぶし銀」もまた、煙を浴びせていぶした銀のことで、これは硫黄のすすを用いておこないます。
いぶすと銀の光沢は失われてしまうのですが、銀は手入れせず放っておくと黒ずんでしまうものなので、あえていぶす価値があるのです。「派手さは消えたが、しみじみと渋さが感じられる」というのが、いぶし銀と評される人の特性です。
いぶし銀の由来・言葉の背景
硫黄のすすでいぶした銀は、貴重金属ならではの光沢を失ってしまい、くすんだ色となります。ですが、そこに普遍的な、新たな価値が生まれます。
ここから、俳優であれば貴重なバイプレイヤー、野球選手であれば小技が上手い、守備が安定しているなどの特性を持つ人が、いぶし銀と評されます。主役を張る人に対して使うのは妥当ではありません。
いぶし銀の使い方
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いぶし銀の用例です。
「彼の演技にはいぶし銀の存在感が感じられる」
「○○監督の現役時代には、ファンは彼をいぶし銀と呼んだものだ」
このように、言葉の由来を知らなくても、誰もが共通して「渋い」「主役ではないが欠かせない」というイメージを思い浮かべられるため、大変便利な言葉です。
いぶし銀の類語・対義語
「いぶし銀」は、もっぱら人に対する褒め言葉として使われます。類語は乏しいですが、意味的に似た言葉はあります。
例えば、役者・落語家など、表現者に対して使える似た種類の褒め言葉として「噛めば噛むほど味のある」「スルメのような」などという表現があります。「いぶし銀」と同様、最初の印象と異なる味が後からじわじわ出てくる様子を示しています。
いぶし銀の対義語としては、見かけは立派だが中身が伴っていないという意味の言葉が該当するでしょう。例えば、「見かけ倒し」であるとか「ウドの大木」などです。見た目が立派でないならば、そもそも妥当な悪口ではありません。
いぶし銀を英語で説明
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いぶし銀を英語でいうとどうなるでしょう。oxidized silverとなるのですが、これはいぶした銀そのものを指す直訳です。例えとして用いられる、渋い存在感を意味的に訳すとこのようになります。
<彼の演技にはいぶし銀のような味がある. His performance impresses us with a skill that is quiet and restrained rather than obvious.>
<いぶし銀のように光る演技a masterfully controlled performance>。
いぶし銀から学ぶ
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例えとしては、いささか紋切り型になるかもしれませんが、だからといって「いぶし銀」と評されて怒る人はあまりいないはずで、かなりの褒め言葉だといえるでしょう。
本当に目立たない人に使うのではなくて、主役ほどは目立たないという程度の、ある程度名を挙げた人に対して使うことが適切だと思われます。もっとも、誰が見ても常に主役だという人については、使わないほうがいいでしょう。いぶし銀という言葉は目を引くほどの華はないが、名を馳せた人に対して使う言葉です。
いかがでしたか?燻した銀から生まれた「いぶし銀」という言葉について関心が深まったでしょうか。
ぜひ、日常生活でも渋くてかっこいい褒め言葉「いぶし銀」という言葉を使ってみて下さい。