100点のない仕事|ピアノ調律師/渡辺順一

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PIAPIT 代表 渡辺順一

ピアノ調律師

<調律師とは>

PIAPITではピアノの調律・修繕をおこなっている。オーバーホールと呼ばれる分解点検修理も行い、グランドピアノでは約1万個のパーツを点検、修理をする。言わばピアノの医者である。

千葉県印西市にあるPIAPIT。異世界に入り込んだような魅力的な空間になっていて、歌手のKのプロモーションビデオ撮影や、JUN SKY WALKER、末光篤(木村カエラの『Butterfly』の編曲・作曲家)の撮影にも使用されたことがあるほどだ。

その空間には、気さくで優しい方たちが集まっていた。なかでも職人気質でありながら、明るい人柄の渡辺さんに話を聞いた。

ピアノ調律師を目指したきっかけとは

「高校時代は漠然と音楽に携わる仕事がしたいと思っていた。ただ、何の仕事がやりたいかは明確ではなかったんだよね。どうしようかと考えた時に僕は手先が器用だったから楽器を作るような職がいいと思ったんだよね。

やっぱりミュージシャンで食べていくのは難しいことだと分かっていたからさ。音楽に携わる仕事で食べていける仕事がピアノ調律師だと思った」

高校生の時に音楽の道に進むことを決断した渡辺さん。

「振り切ったほうがいいと思った。ダメだったとしても、いくらでも修正できるって思ってたしね。まずはやってみる。足をつっこんでみる。でも調律師になってみて、やっぱり自分に合っているとは感じるけどね」

自分に合っていると思う理由の一つが、ジャンルは違えど、周りに音楽好きな人がたくさんいて心地がよかったとのこと。みんなで集まると音楽の話はもちろんのこと、演奏もしているそうだ。

渡辺さんは現在56歳、調律師になってからの苦労について聞いた。

100点のない仕事

「どんなにオーバーホールをしても100点が取れないってことかな。褒められるとおしまいだっていう世界。もっとこうしてください、ああしてくださいという要望があって、楽しみながら苦められる仕事だよね。常に目の前の楽器に悩まされるよ。

でも100点のない仕事だからこの仕事を続けられる一番の要因だと思っていて、ゴール地点がまったく見えない、だからこそこだわれるし、これでOKとはならない。それが面白いけど大変なことかな」

大変なことでもあり、やりがいでもあると語る渡辺さん。

インタビュー中、工房を案内してもらうことができた。

会社を立ち上げてから、自ら足場を組み立て、0から作り上げたそうだ。従業員は現在17名。どのような職場作りを心掛けているのか。

仕事は楽しむもの

「うちは子供がいる主婦でも仕事ができる環境が整っているし、みんなが和気あいあいと楽しめる職場かな」

「みんなが楽しく仕事ができるように、仕事中でも飴を舐めてもいいし、ラインやメールをしても誰も怒らないよ。ねこも4匹いるしね。オンオフが大事だよ」

PIAPITでは一人ひとりが個人事業主で、職人たちで仕事を振り分けている。なので業務量によってそれぞれの給料も違い、経営者感覚で仕事をしているという。

10部屋近くある広い工房を回り、この工房自体がPIAPITの魅力なんだと渡辺さんは言う。

「個人でやっている人なんかだと工房を持っていない所が多いよね。倉庫やガレージだけ借りてやっているとかね。でもうちは工房をもっているから、いろんな職人さんが来るし、もしかしたら体験中にその人たちにも教えてもらえる可能性もあるかもしれないね」

最後にギターが飾ってある部屋に案内してもらった。ピアノだけではなくギターも演奏してもらい、仕事を趣味のように楽しんでいる姿はとても魅力的に感じた。

若い世代に繋いでいきたい

創業から23年になるPIAPIT。今後の目標について聞いた。

「やっぱりこの技術を若い世代に継承していきたい。どんな職人の世界でもなかなか見つけられないからさ。電話だけでは伝わらないところが多いから、体験してきてほしいね」

最後に体験希望者へメッセージをお願いした。

「自分も色んな方と話をすることは勉強になるので、来ていただけるのは楽しみです。ぜひ、手ぶらで体験してきてください」

インタビュアー後記

PIAPITの工房は異空間に入り込んでしまったかのような造りで遊び心があり、働いている人もワクワクするような環境が整っていました。そしてこの環境で好きなことを仕事にしている職人さん達はとても魅力的でした。それも渡辺さんの人となりがあってこそだと感じました。ピアノという知名度の高い楽器を0から組み立てられ、調律されていくという、普段見ることのない裏側の過程を見て触れることのできる貴重な体験だと思います。ぜひ、みなさんも一度体験してみてはいかがでしょうか。

また実際に作業していた職人さんにもお話を伺いました。こちらもぜひ読んでみてください。

元社会科教師からピアノ調律師という職人の道へ

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