今回は、前々から気になっていた錫のワークショップ(大人の職場体験)に行ってきました!
錫?なにそれ?金属の一種なのは知ってるけど、鉄やアルミに比べてイマイチ馴染みが ないよなぁ……。
そんな無知な私ですが、あえてネットで調べることなく、事前知識ゼロで挑戦してみることにしました。
錫のぐい呑みを作りに「錫光」さんへ
↑体験先の中村さん
電車に乗ること幾数分。駅でバス停を探してうろうろするうちにうっかりバスに乗り遅れ、
けれど元々最寄のバス停からたどり着ける気もしていなかった私は、駅から迷わずタクシーで錫光さんへ(駅から千円程度なので、初めての場所に自信のない方はお勧めです)。
降り立った場所に建っていたのは「中村」の表札のかかった本当に普通の一軒家で、イ ンターフォンを押すべきかどうか迷って徘徊していると、ぐるりと回った先に「錫光」と大きく書かれた看板がかかっていて、やっと一安心することができました。
ノックを聞きつけ たお弟子さんに中に招き入れて頂くと、そこには「これぞ職人の工房!」とばかりに、鍋や、 名前も知らない器具や、機械が並んでいて、それだけでテンションが上がります。
↑工房の様子
奥から出てきた中村さんはとても朗らかで親しみやすい方で、にこにこしながらご挨拶してくださいました。奇しくも体験当日直撃していた台風の話をしているうちに体験者がそろったので、いよいよ一日体験が始まることに。
まずは中村さんに奥に案内していただき、テレビの映像を見ながら錫の基本的な知識を教えていただきました。中村さんが奥から取り出してきたのは、15センチくらいの銀色の板とも棒ともつかないもの。
↑自由自在に曲がる錫
中村さん「これが、純粋な錫、純錫です。」
錫を錫として意識して見るのは初めてで、体験者全員興味津々。純錫という言葉があること も、恥ずかしながらこの日初めて知りました。 手にとって見ると、体温で曲がってしまいそうな、何ともいえない指の感触でやわらかいことがすぐ分かります。実際、力を入れるとすぐに曲がって、折れてしまわないか不安になるほど。
中村さん「ワークショップでは、これをそのままねじって箸置きにしたり、叩いて伸ばして薄いお皿を作ったりすることが多いです。」
↑ワークショップの素敵な作品たち
なるほど、それなら使う道具も少なくてすむし、場所も選ばないというわけです。 けれど、今日私たちがいる会場は職人さんの工房。
中村さん「皆さんには、型を取り、磨いて、模様を付ける。この基本的な工程を一通り行っていただきます。今まで行ってきたワークショップの中でも結構な難易度です(笑)」
中村さんがいくらにこにこ笑顔でも、私を含め体験者に一瞬緊張と不安が走りました (笑)。 ほかにも作品を見せて頂いたりした後、ワークショップのためいよいよ再度工房へ。難しい ところはお手伝いしますからねとにこにこ言ってくださる中村さんに、既にすがりたい様な気持ちです。
さっそく錫のぐい呑み作り体験スタート!
↑この型に錫を流し込みます!
まず最初は型取りから。鍋の中で熱された錫を石の型に流し込み、ぐい呑みの形を作ります。
お鍋の中の錫はお玉で掬うと水のようにさらさらした見た目で、テレビの鋳物特集でよく見る鉄のどろっとした感じとはまた少し違う様子。ぐい呑みの型を取っていたお弟子さ んの周りに集まり、お手本をまず見せていただきます。
中村さん「錫は冷め易く、型の温度によっても固まる時間が変わります。固まりすぎてしまうと縮んで、今度は型から外れなくなってしまいます。」
↑サラサラなのにすっごく重い!
型の口にお玉からするすると錫を流し込み、固まった錫をスムーズにペンチではずしてい るお弟子さん。見た目には簡単そうですが、これも職人技のなせる業なのだろうと体験者は必死に見て学びます。 お弟子さんが二個目の型を取ろうとしたところで、あっと声を上げました。
「これ、もうだめです。冷えすぎちゃって外れません。」
型の上を持ち上げてみると、確かにぴったり錫がくっついてしまっています。型や気温の変化でも型をはずす時間が変わってくるので、少し気を抜くとそうなってしまうそう。お弟子さんでも失敗することがあるのに、素人の私はどうしたら……と思っていたところに、お弟子さんがお鍋の中に錫をぽちゃんと浸けました。
「皆さん安心してください。溶かせば戻るので、失敗してもやり直しできます。」
それならご迷惑をおかけすることもないと、緊張が少し和らいだところで、早速二人ずつ挑 戦していくことに。前のお二人が型を取り終わり、いよいよ私の番です。
ぐい呑みの形を作る
↑慎重に錫を型に流しいれます
↑難しい~!
椅子に座るとお鍋がほのかに暖かく、錫がよく熱されていることが分かりました。
お玉を 持つと、その滑らかさに反して、思った以上の重さにまず驚き。さらさらしていてもやはり金属です。そしてそれを小さな口から型に流し込む難しさ。
火傷をしないように軍手をしていてもやっぱり怖いし、でも流さないと始まらないし、かといって時間をかけすぎると型から外れなくなるしで頭の中はプチパニック。気づくと机の上に錫がびゃーとこぼれていて、さらに慌てます。
横についてくださった中村さんにあれこれアドバイスをしていただき、ついでに流し込むのをやめるタイミングを「はいやめ!!!」と教えて頂くと、三度目の挑戦 で丁度いい感じに型に錫が入ったようです。
型の口から少しはみ出た錫をペンチで引っ張り、ぐい呑みの原型を取り出します。
あとはその余った部分を切り取ると第一段階終了。無事に 終わったことにほっと一安心です。これでなんとか次の工程に移れます。
錫のぐい呑みをピカピカに磨く
↑研磨に使う貴重な機械
第二段階は研磨。型の外側と足の部分の内側を削り、滑らかにしていきます。研磨の際に使う機械を見せていただきました。
職人さんが減ってしまった影響で今では機械そのもの が製造されておらず、大事に使ってらっしゃるそうです。
この機械に錫製品(今回はぐい呑み)を装着し、回転させているところにカンナの刃を当てることで削っていくとのこと。
中村さん「この足元に機械のベルトを操作するペダルが二つあるんですが、どちらのペダルを踏む かによって回転の方向が変わります。左右の回転を上手に使いながら削っていきます。」
↑中村さんのお手本の様子
機械と工程を説明していただきながら、まずは中村さんのお手本を拝見することに。 ぐい呑みを金づち等を使いながら機械に装着し、ウマと呼ばれる台にカンナを乗せて角度を調整します。
↑しゅるるるるん~
中村さんがぐい呑みにカンナを当てると、しゅるるるるんと見ているこちらが気持ちよくなるほどスムーズに錫が削れていきます。ぐい呑みの口元がある程度薄くなり、表面がつるりとしたら研磨終了。
型取りしたばかりの物と比べると、その滑らかさの違いは一目瞭然です。
中村さんのお手本が終わり、いよいよ研磨に挑戦です。機械にぐい呑みをセットしますが、 まっすぐセットするのがまず難しい。へこまないように木を当てて金づちで打ったり、手で押し込んだり、あれこれ試しながらやっとカンナを手に取ります。
↑難しい~!
ウマに乗せていざぐい呑みに当ててみると……中村さんのときにはなかった、耳を覆いたくなるような盛大な金属音が!
なんでも、カンナを当てる角度が悪いとこうなってしまうそう。錫自体は削れていないわけではないのですが、削りカスは途切れ途切れで、糸のよ うに連なって落ちては行きません。
今回の工程の中で研磨が一番難しいそうで、中村さんとお弟子さんも必死でウマを動かして角度を変えたり、手を当てて一緒に削って下さりました。
↑錫の削りカス
試行錯誤しているうちに、ふと、金属音が消え、カンナにかかっている負荷が消えた手ごたえが。削りカスも糸のように長くなっています。
ハッと中村さんを見ると、ぱっと顔を輝かせて、「ありましたか!手ごたえ!」と自分のことのように喜んでくださり、霧散していたやる気がむくむくわきあがってきます。
とはいえ、ぐい呑みの表面は丸みを帯びており、滑らかに削るのはやはりなかなかの難易度。削れ過ぎて線ができたり、カンナの角度が悪くがたがたと傷がついてしまいます。
↑削りおわったぐい呑み
けれど私は線があるのも模様みたいで面白いのではないかと思い、あえて線を残したままある 程度削れたところで研磨を終えました。
錫のぐい呑みを模様付け
体験者が心行くまで研磨したところで、次がいよいよ最後の模様付けに入ります。
↑好きな模様をトントントン
錫は柔らかい金属なので、模様のついた金づちで表面を打つことで、簡単に模様が入ります。
↑底にイニシャルを!
計4 種類の槌(つち)を使い、思い思いにぐい呑みをうち、模様を付けていきます。 最後に裏面にイニシャルを打ち込み、ついにオリジナルぐい呑みの完成です。
↑完成!
達成感の中、中村さんが体験者の作品を一つ一つ手にとって、丁寧に講評して下さいました。私のぐい呑みの時には、
中村さん「線をあえて残して模様にしたのは味があって良いですね。線の上だと模様も普段とは 少し違って見えてとってもオリジナリティにあふれていますよ。」
とニコニコしながらほめてくださいました。
錫のぐい呑みで味わう日本酒
↑錫のぐい呑みで一杯!
中村さんとお弟子さんの仏の笑顔に見送られながらついた岐路の途中、錫の器で飲むだけで日本酒がおいしくなると教わったことを思い出し、日本酒を買って帰ることに。
あまり お酒を嗜まない私でも違いが分かるのか不安になりながら、ガラスの器と出来立てのぐい呑みで日本酒を飲み比べてみると……ち、違う!明らかに味が違う!
ガラスの器が「うんうんそうだよね、こんなもん。」くらいの味なのに対し、
錫のぐい呑みで飲んだときには、日本酒の角が取れ、口当たりがまろやかに。かつ、味が濃厚になった感じがしました。
自分で作ったぐい呑み補正かと思い、後日友人を家に招いたときに試したところ、やはり味が違うとのこと。錫の力、侮れません。
工房に着いたときは不安でいっぱいだった私ですが、中村さんとお弟子さんの笑顔と 手厚いケアの下、無事に楽しくぐい呑みを完成させることができました。
お酒を飲む方も、 飲まない方も、ワークショップが始めての方にはなおさらこの錫のぐい呑みワークショッ プはお勧めです。皆さん、ぜひ、錫光さんに遊びに行ってみて下さい。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。 次回はぜひ、漆(うるし)による着色も体験してみたいところ……。中村さん、ぜひお願いします!!