現代の名工の意思を継ぐ錫師|錫光/中村圭一

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錫光

二代目/中村圭一(56)

<錫師とは>

“錫師”とは、半田やメッキに使用される錫を用いて、酒器や茶器などの様々な容器を作成する職人。錫師の技術は、1200~1300年程前の飛鳥・奈良時代に中国から伝えられたと言われている。

今回は「現代の名工」「黄綬褒章」を受賞した先代である中村光山さんを父にもつ、二代目中村圭一さんに話を聞いた。偉大な職人を間近で見てきた圭一さんはどのような思いで錫師という仕事に取り組んでいるのか。

まずは錫師の世界に踏み込んだきっかけについて話を聞いた。

30歳で錫師の世界へ

「大学を卒業後は石油化学メーカーで経理職をやっていました。父は根っからの職人で経理のことは分からないので、私が27歳頃からサラリーマンとして働きながら経理や事務作業を手伝っていました」

「そして父から『一緒にやってみないか』と誘われ、30歳に時に脱サラして錫光の二代目として継ぐことを決意しました」

小学生の頃から毎日学校から父親が勤務する工房へ帰って遊んでいたという圭一さん。そのころからイメージがあり、30歳でこの世界に踏み込んだのも自然の流れだったという。

転職後の苦労

一人前になるまでにどれくらいかかったのだろうか。

「簡単な工程は3年あればできるんですけど、茶入れとか製品が難しくなってくると7、8年はかかりましたね」

「普通は十年かかるものなんですけど、父からは『遅く入ったんだから半分の5年で習得しろ』と言われていました。父は2年で茶入れを作れるようになったんですよね」

現代の名工である先代の背中を見て育った圭一さんは、常に先代の仕事を見て目に焼き付けていたとのこと。

「ある時父の友人が工房に来た時に私の仕事を見て、何やってんだよみたいな顔で見ながら『職人の世界は14,5歳で入らないとモノにならないんだよね』と言ったんですよ」

「本当に悔しかったです」

今となってはそれが糧になって、壁にぶつかっても諦めずここまでやり通すことができ、いつの間にかのめり込んでいたそうだ。今では父の友人に感謝しているとのこと。

製造から販売まで一貫して行う

現在は56歳となり26年ほど錫師としての技術を磨いている。今の錫師としてのやりがいについて聞いた。

「昔は分業だったんですが、今では一貫してやるようになりました。これは大変ではありますが、すごく楽しいんですよね。分業しているとどうしても打ち合わせが必要になります。それが一貫してやることで原料の錫から完成まで自分のイメージ通りに仕上げることができます。それはやりがいに繋がりますね」

販売までやっている錫光ではお客さんから『これいいね』と直接反応も受け取れるというところにもやりがいに繋がっているとのこと。

錫光の強み・こだわり

錫師も減る一方。今では全国で20人いるかいないか、といわれている。そんななか生き残っている錫光にはどんな強みがあるのだろうか。

「先代から受け継いだ昔ながらの技法を一貫してやれていることですね。ろくろ挽きは他の業者では手間なのでやらなくなってきていて、鋳造だけで済ましてしまうところも多いです。私たちは昔ながらのろくろ挽きという技法を大事にしています」

ろくろ挽きをすると、長く使うという点においてはろくろ挽きをした方が汚れにくく、メンテナンスがしやすいとのこと。

錫の魅力とは

「錫は保冷・保温性に優れていて、錆びないので器としては最適です。あとは鉄などとは違い、金属っぽい味がしないんですよね。柔らかい口当たりが特徴で、お茶もお酒も、口当たりがなめらかになり風味がまろやかになります」

錆びないので手入れも簡単。そして使い込むほど光沢が宿り味が出るという。

次世代へ「現代の名工」を受け継ぐ

今後の目標を聞くと大きな野望を聞くことができた。

「先代が現代の名工だったので、2087年までにこの工房からもう一人現代の名工を輩出することですね。目標を思い切って高く設定することで、それを実現するために今、何をなすべきかということが自ずと明確になります。今は自分が技術をしっかり伝えていかないといけないと思っています」

最後に体験希望者へメッセージをお願いした。

作り手の思い

「モノづくりの楽しさを分かってもらえれば嬉しいですね。今は機械化が進んで一つの製品もパッとできるイメージがあるかもしれませんが、手仕事を通じて作り手の思いを感じてほしいです」

インタビュアー後記

父である先代の背中を見て育った圭一さんには、強い志を感じました。30歳で脱サラにも、モノづくりが好きな気持ちさえあれば遅くないということ証明してくれています。ぜひみなさんも一度体験し、自分の人生を振り返ってみてはいかがでしょうか。

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