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「君は穿った(うがった)見方をするタイプだなぁ」と言われた場合、あなたは嫌味を言われたと感じますか?それとも褒められたと感じますか?
「言葉は時代に応じて柔軟に変化していく生き物だ」というような捕らえ方をする方がいますが、余りにも本来の意味とかけ離れた理解は言葉の誤用を招き、文化が脆弱になってしまう危険性を孕(はら)んでいます。
2011年に文化庁が行った国語に関する世論調査では、実に約7割近くの回答が穿った(うがった)見方の意味を本来の意味ではなく誤って理解していることが判りました。
つまり、穿った(うがった)見方という言葉は誤った意味で捉えられ、誤用されている言葉の代表的な存在だと考えられます。穿った(うがった)見方の本来の意味や使い方を掘り下げいきましょう。
【意味】 | 穿つように鋭い洞察力で物事の本質を見極めるような見方のこと。 |
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【由来】 | 穿つという言葉は獣が牙で穴を掘る様子や、獣の牙を利用した道具で穴を掘る様子を指し示していたことから。 |
【類語】 | 「看破(かんぱ)する」「審美眼がある」「鑑識眼がある」「眼力が高い」「確かな目を持つ」 |
【対義語】 | 「目が節穴」「見る目が無い」「目が利かない」「鑑識眼がない」「不見識」 |
【英訳】 | 「penetrating remark」 |
穿った(うがった)見方の意味
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穿った(うがった)見方という言葉を分析すると、穿つ(うがつ)ような見方を指していることが判ります。現代では穿つという言葉が使われることは少なくなってしまったかもしれませんが、穿つには穴を開けるという意味があります。
転じて物事の本質を見極めるという鋭い洞察力を指す場合に使用されるようになりました。
つまり穿った見方というのは、本来は「穿つように鋭い洞察力で物事の本質を見極めるような見方」という意味を持つ言葉なのです。穿った見方は褒め言葉ということになります。
既述した世論調査の中では全体で約半数の人が本来の使い方ではない、「疑ってかかるような見方をする」という意味で使っており、また、約5人に1人が分からないと答えています。
また、穿ったという言葉を用いたことわざの一つに「穿ち過ぎ」という言葉があります。これは、物事の本質や人情の機微をとらえようと執着するあまり、真実からかけ離れてしまうことを指し、この言葉からうがった見方の誤った意味に影響を与えたと考えられています。
本来褒め言葉である穿った見方も、受け取り手によっては「嫌味を言われた」と感じてしまう危険性があるということですね。
穿った(うがった)見方の由来・言葉の背景
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穿った(うがった)見方の穿つという言葉が、穴を開けるという意味を持つことは既に紹介しました。穿つという漢字は穴と牙で構成されています。
表意文字として考案された漢字は文字の構成から、ある程度その文字の背景を読み解くことが可能な文字ですから、 本来穿つ(うがつ)という言葉は獣が牙で穴を掘る様子や、獣の牙を利用した道具で穴を掘る様子を指し示していたのではないかと考えられます。
本来、物事の本質を鋭く見極める洞察力を指す穿った見方が誤用されるに至った背景には、余りにも深掘りし過ぎて到達した結論は、実は本質とはかけ離れてしまうことがあるということを揶揄していたという説があります。
他にも、現状に惑わされることなく本質を見極めるためには物事を疑ってかかる見方が必要なことから、「ひねくれた、素直でない、偏見に満ちた見方」という誤用を招いたのではないかと考えられます。
穿った(うがった)見方の使い方
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具体的に、穿った(うがった)見方という言葉はどのようなシチュエーションで用いることができるのかを考えてみましょう。
例えば新規案件に対する固定観念に縛られない意見が欲しい場合には「この案件について穿った見方が得意な彼の目にはどう映るかを聞いてみたい」
物事の真実に自由な発想で迫ったことで導き出した研究結果がある場合などには「素晴らしい研究結果に辿り着いたのは穿った見方を得意とする彼女の存在があったからだと言える」
そしてうわべに惑わされない世界観を確立している人を評する場合には「彼の独特の世界観は常に物事を穿った見方で見ていることで作り上げられたようだ」などの用い方ができます。
穿った(うがった)見方の類語・対義語・英訳
穿った(うがった)見方の類語には「看破(かんぱ)する」や「審美眼がある」、「鑑識眼がある」、「眼力が高い」、「確かな目を持つ」などの言葉が存在します。これらは全て物事の本質を鋭く見抜く力を指す言葉で、直接的な賞賛の意味を持っているのが特徴的だと言えます。
一方、穿った見方の対義語には「目が節穴」「見る目が無い」や「目が利かない」、「鑑識眼がない」、「不見識」などの言葉が存在します。どの言葉も物事のうわべに囚われて本質を見極めることができない状態を指します。
また、穿った見方を英語で伝えたい場合、「penetrating remark」で穿った見方となります。「penetrating」は「貫通する」や「洞察力のある」、などの意味があります。「remark」は名詞として使うと意見や注目といった意味になります。
穿った(うがった)見方だけじゃない!日本人が誤って使っている言葉とは?
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これまで、穿った(うがった)見方の本当の使い方や由来などについて見てきました。穿った見方だけでなく私たち日本人が誤って使っている言葉は他にもたくさんあります。実際に誤って使っている言葉の本当の意味を見ていきましょう。
・失笑
失笑という言葉を「笑いも出ないほどあきれた様子」として使っている人が多いのではないでしょうか?実際に平成23年に文化庁が行った「国語に関する世論調査」では60パーセント以上の人が誤った意味で使っていました。本来は、「笑いがこらえきれず、思わず吹き出してしまう」という意味です。
・御の字
こちらも誤って使っている人が多い言葉です。文化庁が行った「国語に関する世論調査」で「一応、納得できる」といった意味で解釈している人が50パーセント以上に上りました。しかし、本来は「大変ありがたい」といった意味です。
・気が置けない
こちらの言葉も約半数の人が「相手に気配りや遠慮をしなくてはならないこと」として本来の意味とは真逆の意味で使っていました。しかし、本来は「相手に気配りや遠慮をしなくてよい」という意味です。つまり、「気が置けない仲」というのは、仲が悪いのではなくむしろ仲が良いということです。
・煮詰まる
「議論が煮詰まる」ことは良いことでしょうか?文化庁の行った「国語に関する世論調査」では40代より前の年代の方になると「結論が出せない状態になること」として誤って捉えている割合が多くなります。
しかし、本来は「結論が出せる状態になること」という意味で、議論が煮詰まることはその完成を指します。
・敷居が高い
こちらも、30代以下の年代になると「高級すぎたり、上品すぎたりして入りにくい」という意味で使っている人が多くなります。しかし、本来は「相手に不義理などをしてしまい、行きにくい」といった意味です。現代になってだんだんと使われ方や意味が変化してきています。
・爆笑
この言葉は本来、「大勢がどっと笑うこと」として使われていました。しかし、ほとんどの人が「一人で大笑いすること」という意味で使っているのではないでしょうか。現在は広辞苑が改訂され、一人で大笑いすることも爆笑の意味として含まれるようになりました。
至上の褒め言葉である穿った(うがった)見方
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穿った(うがった)見方という言葉の本来の意味は「物事の本質を鋭く見極める高い洞察力を供えたものの見方」だということが判りました。これは至上の褒め言葉ではないでしょうか?
しかし、穿った見方の正しい意味を理解していない相手に対し「君は穿った見方をするね」などと使うと不快な思いをさせてしまう場合があるので気を付けてください。
「君は素晴らしい洞察力を持った穿った見方をするね!」と褒めるような言葉を添えて、日本語を正しく使いこなせる粋な日々をお送りしてみてください。