「とらや」は創業以来5世紀もの歴史を誇る御菓子司。竹皮に包まれた大きな羊羹や種類が豊富な小形羊羹、最中やおしるこ、干菓子など、どのお菓子も内容はもちろんパッケージも美しく、伝統とともに培われた老舗の品格を感じさせます。とらやの歴史と代表的な御菓子や材料についてご紹介します。
とらやの歴史
室町時代時代後期、京都で開業
室町時代後期に京都で創業した「とらや」は、創業以来5世紀の歴史がある和菓子屋です。京都御所の御用菓子司だったとらや。寛永12年(1635)に作られた最古の御用記録には、「やうかん、あるへいたう、らくがん、大まん、まめあめ」と書かれていて、当時からさまざまなお菓子を作っていたことが分かります。
出典:株式会社 虎屋
そして、元禄8年(1695)には、いろんな菓子の絵や名前、説明などの意匠が書かれた菓子見本帳「御菓子之畫圖」が作られました。いわば、現代版、お菓子のカタログ。この中には、いまでもとらやで作られている菓子が収載されています。季節や行事などに合わせて、ああでもない、こうでもないとお菓子を選んだ人の姿が目に浮かぶようです。
東京店の開店と戦時下のとらや
やがて明治2年(1869)になると、天皇が東京に遷都したので、京都の店を残したまま東京にも店を開設。大正7年(1918)には、いまなお使用している菓子見本帳が作られました。昭和10年(1935)は、戦時下にあったため軍の注文で主に出征した兵隊に渡すため携帯用羊羹を製造。海軍用は円筒形の「海の勲(いさおし)」、陸軍用は四角い「陸の誉(くがのほまれ)」という羊羹であったといいます。昭和11年(1936)徴兵で男性店員が減ってしまったため、始めて女性店員を登用。以後、とらやでは女性が働きやすい職場改革など世間に先駆けて行われています。
戦後は世界のとらやへ
昭和53年(1978)には、御殿場工場を竣工。富士山麓の良質な水で羊羹と餡を専門に作る工場として稼働させました。
出典:株式会社 虎屋
昭和55年(1980)にはパリに店を構え、平成5年(1993)にはニューヨーク店を開店。伝統ある老舗の店ながら、進取の気性にも飛んでいるのがとらやの特徴です。平成15年(2003)には、六本木ヒルズにTORAYA CAFÉを開店。ここでも和菓子と洋菓子の融合を図るなど、新しい風を取り込んでいます。平成24年(2012)には、東京ステーションホテルにTORAYA TOKYOを開店。ここには、「とらや」はもちろん「TORAYA CAFÉ」や「とらやパリ店」「とらや工房」で販売されている御菓子が一同に会しています。
とらやのお菓子にまつわる話
いまや世界で愛されているとらやですが、代表的なお菓子や材料には、それにまつわる起源など歴史的背景があります。その中の一部をご紹介します。
motaro1_4さん(@motaro1_4)がシェアした投稿 – 9月 22, 2017 at 5:34午前 PDT
小形羊羹
小形羊羹は、大形の羊羹と並んでいまもとらやを代表するお菓子なのですが、発案したのは15代店主の黒川武雄です。大正時代、六大学野球の観戦にたびたび足を運んでいた武雄は、「観戦の帰りに気軽に買ってもらえるお菓子を作りたい」と思います。
そんな折、フランスのコティ社の香水をもらったのですが、センスのいいパッケージを見て羊羹を小形にするアイデアがひらめきました。そして、昭和5年(1930)に「夜の梅」と「おもかげ」という羊羹を小形にしてアルミ箔のパッケージに包んだのですが、それが現在の小形羊羹の始まりとなりました。
萌黄色の小さな箱に入れられた2本の小形羊羹。時を経て平成20年(2008)、現在の小形羊羹のパッケージになり、季節の食材を使った小形羊羹やご当地の小形羊羹など豊富なラインナップが用意されています。
夜の梅
とらやの代名詞といってもいいほど有名な羊羹。竹皮に包まれた大形の羊羹はずっしりと重く、風格すら感じさせます。小倉羊羹なのですが、中に入っている粒あんがまるで夜に咲く梅の花のようにうっすらと見えることからこの名前がつけられました。
「夜の梅」という菓名は元禄7年(1694)の古文書に書かれているのですが、どのような材料を使い、どのように作られていたかは記されていないそうです。文政2年(1819)の記録には「羊羹」という文字が確認でき、文久2年(1862)の文献からは、羊羹を小豆や寒天で作っていたことが読み取れます。
黒砂糖
とらやのお菓子には黒砂糖もよく使われています。サトウキビの絞り汁を煮詰めて作る黒糖は、まろやかな風味と豊富なミネラルが特徴です。とらやでは沖縄の8つの島で作られる沖縄黒糖のうち、西表島の黒糖を使用。優しい風味の黒糖は、長く親しまれている定番羊羹「おもかげ」をはじめ、さまざまな御菓子に使われています。
遠い昔に発案された羊羹などの御菓子がいまもそのまま作られていたり、一方、紅茶の羊羹など和と洋の新しい組み合わせにも挑戦し、「TORAYA CAFE」を出店する等、さまざまな顔を見せて楽しませてくれる「とらや」。
伝統としていいところは守り、新しい時代の息吹も敏感に感じ取って取り入れていく進取の気性。これからも「とらや」の進化に期待したいですね。
この記事が気に入ったら
いいね!を押して最新情報を受け取ろう