伝統的な日本食の一つである懐石(かいせき)料理。同じ読みをするもので会席料理もあります。どちらも同じ読みですが、意味は大きく異なってきます。
今回は懐石料理と会席料理の違いをはじめ、マナーや料理の順番などご紹介します。
懐石料理とは
出典:写真AC
懐石料理とは、日本の伝統的な料理のひとつで、茶道や芸能などとともに日本文化を代表するもののひとつとされています。もともとは禅宗の修行者たちが行う精進料理が起源とされています。
懐石料理は、食材や器、調理法、盛り付けなどにおいて、一つ一つに意味や趣が込められた、繊細で美しい料理です。季節感を大切にし、旬の素材を活かした料理が特徴であり、食材の風味を最大限に引き出す調理法や、器や食材の色合いを絶妙に調和させた盛り付けなど、細部にまでこだわりが見られます。
また、懐石料理は、料理だけでなく、食器や花など、総合的な空間演出も大切な要素とされています。一人ひとりに合わせた心遣いや、空間全体を調和させた美的感覚なども、懐石料理の魅力のひとつとされています。
懐石料理(かいせきりょうり)の特徴として、日本古来の一汁三菜(いちじゅうさんさい)を基本とした料理で、お茶席でお茶の前に出される軽い食事という点も挙げられます。
会席料理とは
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会席料理も、懐石料理と同様に一汁三菜を基本とした日本料理です。ただ、懐石料理がお茶の席でもてなされる料理でしたが会席料理はお酒や宴会の席でもてなされる料理です。会席料理には、献立に沿って一品ずつ食べていく「喰切料理」とお膳や予めすべての料理が並べてある「宴会料理」の2種類があります。
喰切料理には、「温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに出来立てを食べてほしい」という気持ちが込められています。じっくりと一品一品を味覚・視覚で味わえる料理となっています。
宴会料理は、じっくりと楽しみたい食通にはあまり好まれず、一見おもてなしの気持ちが籠っていないようにも見える宴会料理ですが、実は亭主の気持ちが込められている形式の料理なのです。
宴会料理はもともと、中国からきています。中国では、たくさんの料理によってお客様をおもてなしする満漢全席(まんかんぜんせき)という豪華な食事形式でした。宴会料理は満漢全席の「たくさんの料理でおもてなしする」という思いが込められています。
会席料理と懐石料理の違い
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懐石料理は茶席での客をもてなすために振る舞われるものです。
会席料理はお酒を飲みながら楽しむ宴席でのおもてなし料理で、お酒に合う揚げ物なども献立に組まれます。
懐石料理はあくまでもお茶が主役で、お茶を美味しくいただくための食事という位置づけですので、お茶の味を損なう油が多い料理や香辛料を多く使ったものはないのが普通です。 また、懐石料理はご飯と汁物が最初から出るのに対し、会席料理は食事の最後の方に出されます。
懐石料理での料理の順番
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懐石料理で料理が出される順番は以下のようになっています(流派によって多少違いがあるようです)。
1.折敷膳(おしきぜん) | 脚のないお膳で向付、ご飯、みそ汁。向付は刺身が多い。 |
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2.煮物(にもの) | 季節食材を使ったもの |
3.焼物(やきもの) | 焼き魚 |
4.強肴(しいざかな) | 炊き合わせ、酢の物、和え物など |
5.箸洗(はしあらい) | 吸い物または白湯 |
6.八寸(はっすん) | 海山2種の肴(さかな) |
7.湯桶(ゆとう) | そば湯またはおこげなどに湯を注いだ塩味のお湯 |
8.香の物(こうのもの) | 漬物 |
9.菓子・抹茶 | 生菓子や干菓子。季節によるもの |
ちなみに「松花堂弁当」と呼ばれるものは懐石を略したものです。
懐石料理でのマナー
懐石料理は茶道の「侘び(わび)」「寂び(さび)」の心を生かした料理で「旬の食材を使う」「素材の持ち味を活かす」「心配りを持っておもてなしをする」という約束事があります。これは、懐石料理だけでなく和食の基本的なマナーにも深い関わりがありますよね。
また、懐石料理では亭主(もてなす側)と客人(もてなしを受ける側)両方に作法・マナーが決められています。
懐石料理での客人の作法・マナー
・食べ物を頂く前に、先に手を清めます。お店によっては、手洗い場が用意されていたり、おしぼりで手を拭くよう指示されることがあります。
・座っている間には、声を大きくすることや、携帯電話をいじるなどの行動は避けましょう。
・目の前に運ばれた料理は、すぐに頂かず、まずはその美しさや香りを楽しみます。その後、小さな口に分けて、美味しくいただきます。
・焼魚は頭後ろの背中から一摘みずつ食べ、表側を食べ終わってもひっくり返さず骨を取り下の身を食べます。
・刺身のわさびは醤油に溶かさず、刺身の片側に付け、醤油は反対側につけます。
・煮物の中で里芋など滑りやすいものは、片方の箸を刺しもう片方の箸で挟みます。
・串に刺した物は串を抜いてから箸で切って食べます。
・お酒は、ほどほどに楽しみましょう。また、お酒に合わせた食べ物を頂く際には、お酒が進みすぎないよう注意しましょう。
・お茶を頂く際には、お茶碗を一回転させていただき、その後、飲み干します。
・食事が終わったら、器や箸を元の位置に戻し、座布団をキレイにしてから退席するようにします。
懐石料理での亭主の作法・マナー
・自ら手料理を振る舞います。
・旬の食材のみで海のもの、山のもの、里のものなど重複しないよう献立を考えます。
・季節感を大事にし、食材を粗末にしないようにします。
・温かい料理は温かく、冷たい料理は冷たくして提供します。
・料理を運ぶ時間も大切にします。
・隠し包丁を入れたりして食べやすくし、骨の多いものは取り除きます。
・料理の盛り付けや器の組み合わせなどにも心を配ります。
懐石料理の有名店
京都吉兆
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懐石料理の歴史
昔、禅の僧侶が修行をしていた時に、食事の回数が午前中に1回と少なく、夜になると空腹で体温が下がるので、温めた石を懐に抱いて飢えや寒さを凌いだことから、空腹を抑える程度の少量で質素な食べ物、身体を温める少量の食事を懐石というようになったそうです。
禅僧が客をもてなそうとしても食べ物がないため、もてなすことができず、温めた石を客の懐に入れてもらったという話もあります。 また、修行の僧が朝と夕方の2食で空腹に耐えられず、夜に食べた「薬石(やくせき)」と呼ばれるお粥から、との説もあります。
今日の懐石料理は、現在の茶道の原型を作った千利休によるものです。以前茶会の食事は「会席」や「ふるまい」などと記されていて、もともとは会席と懐石の起源は同じだったらしいのですが、安土桃山時代から江戸時代に、茶道は禅宗と深い関わりがあることから「懐石」の文字を当てるようになり、狭い茶室でも頂ける「懐石料理」が完成しました。
空腹の状態でお茶を飲むとその美味しさを正しく感じることができないばかりか、具合を悪くすることもあったようで、空腹の一時凌ぎの軽い食事(懐石料理)が考え出されたといいます。
現在では本来の茶席の懐石料理は「茶懐石」と呼ばれ、区別されることもあります。 懐石料理はもともと量が少ないものであったため、和食のお店で量が少なめのコース料理の名称として「懐石料理」という名前が使われることも多くなっています。
現在の懐石料理の姿
今現在はお茶の文化が盛んであった安土桃山時代や江戸時代とは違ってお茶を引き立てるための料理形式というものの役目が薄くなっています。
一方で、お酒や宴会の席でもてなされる料理「会席料理」は今現在でも多くの日本人に親しまれ、その見た目の美しさから「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
今現在、お茶のための料理は会席料理と区別して「茶懐石」と呼ばれています。お茶の文化が薄れている現代ではありますが、古くより伝わる懐石料理が今もなお親しまれているのですね。
日本料理の神髄ともいえる懐石料理
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禅の精神に導かれ、茶の道に磨かれて飾り過ぎることなく洗練されてきた懐石料理は、まさに日本料理の神髄とでもいえるでしょう。
堅苦しいと思いがちな懐石料理の決まり事も、もてなす側ともてなされる側とが食事を通して真摯に向き合う証と言えるかもしれませんし、決して食べ過ぎず、控えめに食することで、かえって旬の豊かな味わいを感じることができるのかもしれません。
敷居が高そうでなかなか手が出ない懐石料理ですが、日本の伝統を感じるためにも、一度体験してみてはいかがでしょうか。普段味わうことができない懐石料理の奥深さを感じることができるかもしれませんよ。
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